就活や転職活動の場では、「自分の経験やスキルをどのようにアピールすればいいのか」という悩みがつきものです。
その中でしばしば議題にあがるのが「話を盛る」――すなわち、実際よりも大げさに表現したり、時には“粉飾”ともいえるレベルで自分を良く見せようとする行為です。就活生同士の情報交換の場やネット上の就活アドバイスでも、「多少は盛ったほうが有利になる」「数字などを少し誇張して言ったほうがインパクトがある」といった声が聞かれます。
しかし、果たしてそれは本当に正しいのでしょうか。今回は「話を盛る」行為とそれが及ぼす影響を、企業側の視点も交えながら考察し、その“本質”に迫ってみたいと思います。
1. 「話を盛る」とは何か
1-1. 自己PRを“魅力的に伝える”と“虚偽の情報”の境界
まず、「話を盛る」行為にはグラデーションがあります。たとえば、自分の実績を魅力的に伝えるために、表現を工夫してインパクトを高めることと、実際に存在しないエピソードや成果をでっち上げることは大きく異なります。
- 適度な表現工夫:たとえば、「サークルの広報担当としてSNSのフォロワーを○○人から○○人に増やすことに成功した」という具体的な数字や成果を示す。数字が事実に基づいた範囲であれば、話を“盛る”というよりも適切なアピールといえるでしょう。
- 虚偽のアピール:自分が携わっていないプロジェクトをさも自分が主体的にやったかのように述べたり、数字そのものを偽装するのは明らかな嘘です。
「どのくらい事実を膨らませるか」というのは、一見微妙なラインですが、一歩間違えれば採用担当者に不信感を与え、取り返しのつかない事態を招きかねません。
1-2. 「話を盛る」ことで生まれるリスク
たとえ書類選考や面接で一時的に好印象を得たとしても、入社後に実力を問われる場面が必ず訪れます。そのときに「話が違う」と思われれば信頼を失い、キャリアにも悪影響を及ぼす可能性が高いです。特に専門性が求められる職種や、高度なスキルが求められる仕事に就いた場合、採用後に期待に見合うパフォーマンスを出せなければ、自分も企業も不幸になるかもしれません。
2. 企業側の視点から見る「話を盛る」就活生
2-1. 採用担当者の目は厳しい
企業の採用担当者は、通常、数多くの応募者の書類や面接を担当しているため、**「明らかな誇張」や「作り話」**にはかなり敏感です。
- 矛盾:面接時の発言とエントリーシートや履歴書の内容が食い違う。
- 具体性の欠如:やたらと大きな成果を主張するわりに、具体的な数値や行動プロセスが説明できない。
こういった点が見つかると、一気に疑いを持たれてしまいます。特に近年はAIやオンラインツールを使った書類スクリーニングも増えており、“定量的な成果”の整合性がチェックされるケースも増えつつあります。
2-2. 採用活動における「真剣さ」と「誠実さ」の重要性
企業によっては、筆記試験や面接だけでなく、グループディスカッションやケーススタディなど、複数の段階を踏んで総合的に人材を評価しようとします。理由は、**「人柄や資質をトータルで見たい」**からです。
- 「自分はこういう場面でこう考えて行動してきた」といったプロセスを詳しく語り、本人の誠実さや人間性を確認したい。
- 「この人は口先だけでなく、実際に結果を出せる人材なのか?」を判断したい。
短期的な効果を狙った“盛りすぎ”は、これら複数ステップの中で必ずボロが出る可能性があります。長期的な視点から、企業は「誠実で真面目に取り組む人」を求めていると心得るべきです。
3. 「自分の強み」を魅力的に伝える方法
「盛る」ことを考える前に、まずは自分の強みと成果を正確に把握し、正しい言葉でしっかりと伝えることが基本です。そこで以下のポイントを押さえておきましょう。
3-1. 数値や具体例で裏付けをとる
たとえば「リーダーシップがあります」「コミュニケーションが得意です」といった抽象的なアピールだけでは説得力が薄いです。
- 「○人のメンバーをまとめ、○か月で○○の成果を達成しました」
- 「SNS広告の運用コストを×%削減し、問い合わせ数を×倍に増やしました」
こうした具体的な実績や数字を示すことで、企業側に信憑性が伝わりやすくなります。また、成果だけでなくプロセス(どのように考え、どんな行動を取ったか)を具体的に話すと、面接官の理解を深めることができます。
3-2. 自分なりの失敗談や改善点もプラスに変える
自分が経験した失敗や困難を「どう乗り越えたか」を語ることも大切です。盛った成功エピソードよりも、失敗から学んだことや成長のプロセスが、採用担当者にとってはリアリティを感じるポイントになります。企業側は、**「課題に直面したときの考え方や姿勢」**を重視する場合が多く、そこに“嘘”や“誇張”は入り込みにくいものです。
3-3. “背伸び”ではなく“成長意欲”を見せる
企業は成長意欲のある人材を求めています。「これまでにこういう経験があるからこそ、御社でさらにこういうことを実現したい」という具体的かつ前向きなビジョンを示すことが重要です。「自分はすでに完璧だ」と思わせるような“背伸び”をする必要はありません。むしろ、学び続ける姿勢や協調性のある人材であることをアピールするほうが、長期的な採用メリットとして捉えられやすいです。
4. 「盛る」ことと表現力の違いを理解する
就活においては、“盛る”ことよりも**「どう伝えるか」という“表現力”**を磨くことが大切です。同じ内容でも、言葉選びやプレゼンテーションの仕方で印象は大きく変わります。
- 共感を呼ぶストーリー性:自分が経験してきたことを、相手がイメージしやすいようにストーリー仕立てで語る。
- 相手に寄り添う視点:企業がどんな課題を抱えているか、それにどう貢献できるかを伝えることで、ただの自己アピールではなく“相手目線”の提案になる。
このように、過度な誇張に頼らずとも、正確な情報を“伝え方”で魅力的に見せることは十分可能です。
5. 結論:「話を盛る」よりも“自分を正しく魅力化”しよう
5-1. 就活は「自分と企業の相性探し」
就活は、自分という人材を企業に“売り込む”場でありながら、同時に自分のキャリアを企業とマッチングさせる場でもあります。“盛りすぎ”て内定を得ても、入社後にミスマッチが生じてしまうリスクは高まるでしょう。自分の強みやスキルを正しく理解し、それを“魅力化”して伝えることが最善です。
5-2. ウソがもたらす信用問題
虚偽の情報を企業に伝えることは“裏切り”とも言えますし、自分のキャリアを崩壊させるリスクも抱えます。仮に入社してもすぐに能力不足が明るみに出たり、上司や同僚の信頼を失うといった弊害が出るでしょう。
5-3. 「盛る」よりも本当の魅力に気づこう
就活生がよく見落としがちなのは、自分が当たり前だと思っている経験やスキルが、実は企業からすると大きな価値があるかもしれないという点です。たとえば、アルバイトのリーダー経験で学んだマネジメントスキルや、学業以外での活動で築いたネットワークなど、自分では「平凡なエピソード」と感じていても、伝え方や視点によっては十分なアピールになります。
- 「自分の経験をつまらない」と決めつける前に、自分が取り組んだ経緯や成果、そこから得た学びを洗い出すこと。
- そこから“なぜそれをしたのか”“どう工夫したのか”“どう成長につながったのか”を論理的に整理しておくと、面接でもスムーズに語れます。
まとめ
就職活動において「話を盛る」ことは、一時的に書類選考や面接を通過する手段になりそうに見えるかもしれません。しかし、嘘や過度な誇張は入社後のミスマッチや信用失墜につながり、長い目で見れば大きなリスクを抱えることになります。
本質的に大切なのは、『自分の強みを正しく理解し、それを相手(企業)が納得できる形で伝える“表現力”』です。自分を大きく見せるのではなく、ありのままの自分の「価値」を掘り起こし、“魅力化”した形で積極的にアピールすることで、企業との本当のマッチングにつながるはずです。
盛ることにエネルギーを使うよりも、自分が積み上げてきた努力や学びを正しく整理し、誠実に表現する力を育てることが、就活成功の近道だといえます。