文系・未経験からIT業界を目指す方に向けて、増田博道氏の著書『SIerの教科書』(技術評論社、2014年6月)をご紹介します。
SIer(エスアイヤー)という言葉を耳にしたことはあっても、具体的にどのような仕事をしているのかイメージしにくい方も多いのではないでしょうか。
本書は、SIerの歴史的背景からビジネスモデル、プロジェクト管理の方法、さらにはIT業界のリアルまで幅広く解説しており、「IT業界の仕組みを理解したい」「SIerの仕事とは何かを知りたい」という方にとって有益な1冊といえます。
本記事では、本書の概要・おすすめポイント・文系・未経験からのIT就活への活かし方・まとめの順番で解説していきます。
1.1 タイトル
『SIerの教科書』
1.2 著者・出版社
- 著者:増田 博道
- 出版社:技術評論社
- 出版年:2014年6月
1.3 本書が取り扱う主な内容
本書では、SIerという存在がどのように成り立ち、どのような仕事を担っているのかを総合的に解説しています。具体的には、以下のようなトピックが取り上げられています。
- SIerの定義と歴史的背景
「システムインテグレーター(SIer)」という業態がどう生まれ、現在のIT業界においてどのような役割を果たしているのかを紹介しています。 - ビジネスモデルと収益構造
コンピュータシステムの提案から要件定義、開発、運用・保守までの一連の流れをどのように事業化しているのか、収益構造はどうなっているのかを解説しています。 - プロジェクトマネジメントの実際
システム開発プロジェクトでは、人員配置やスケジュール管理、リスクマネジメント、コミュニケーションといった要素が重要です。本書では、こうしたプロジェクト運営の基本的な考え方と具体例が示されています。 - SIer特有のキャリアパスや働き方
SIerでは文系の出身者も多く活躍していますが、エンジニアリングのみならず、マネジメント力、コミュニケーション力など多角的なスキルが必要となります。本書ではそうした側面にも触れています。 - IT業界の課題や未来像
近年のクラウド化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流を踏まえながら、SIerビジネスが今後どのように変革していくべきか、既存SIerが抱える課題は何か、という点にも言及されています。
1.4 本書の特徴
- SIerを包括的に理解できる
SIerの基本的な定義から深い業界知識まで幅広く網羅されています。初心者にもわかりやすい言葉で解説している一方、SIerとして長年従事してきた著者のリアルな経験談も盛り込まれており、理論と実践がバランスよく組み合わさっています。 - 豊富な事例や具体例が多い
抽象的な理論にとどまらず、具体的なプロジェクトの進め方や現場で起こりがちな問題、トラブル回避術などが紹介されているため、「実際の職場でどう活かせるのか」がイメージしやすい構成になっています。 - ビジネススキル・マネジメントスキルの重要性が強調されている
単に技術の知識だけでなく、顧客折衝、チーム内コミュニケーション、スケジュール管理など、IT業界で働く上で必要となる総合力の大切さをわかりやすく解説している点が特徴です。 - 未経験・文系出身者にも安心感を与えてくれる
「IT=理系」という先入観を持つ方も多いかもしれませんが、本書を読めば「文系でも活躍できる場面が多くある」という認識を強めることができるでしょう。特に顧客対応やプロジェクト管理などでは、コミュニケーション力やマネジメント力が物を言います。
2. おすすめポイント
ここからは、本書をおすすめする理由を4つにまとめてご紹介します。
2.1 SIerビジネスを俯瞰できる
IT業界の中でも特に、顧客企業に対しシステムの企画・設計・構築・運用保守までを請け負うSIerのビジネスモデルは少し複雑です。本書では、「SIerとは何をしている会社なのか」「メーカー系やユーザー系、独立系などの違いは何か」といった基本を整理しながら、IT業界全体の構造を俯瞰する視点を提供してくれます。
未経験者ほど、「SIer」という言葉を聞いてもピンとこないことが多いでしょう。実際にどの部分を担当するのか、どうやって収益を上げているのか、その仕事が社会にどんな価値をもたらすのかが明確になるため、将来のキャリアパスをイメージする一助にもなります。
2.2 プロジェクトマネジメントの基礎が学べる
SIerの仕事をする上では、プロジェクトマネジメントが非常に重要です。本書の中では、プロジェクトマネジメントの基本的な進め方や、スケジュール管理・品質管理・リスク管理などの要素がどのように現場で機能するのかを、事例を交えながら紹介しています。
文系・未経験者の場合、「エンジニアとしての技術的なスキルがないと活躍できないのでは?」と不安に思う方もいるかもしれませんが、プロジェクトマネジメントこそがSIer業界で不可欠なスキルです。IT知識をベースにしながらも、コミュニケーション力や調整力が必要とされるため、文系出身の方にも適性があると言えます。
2.3 現場のリアルがわかる
著者自身の経験をもとに、SIer特有の働き方や現場の苦労、さらには大規模プロジェクトならではのエピソードなどが紹介されています。たとえば、大手企業との大規模案件ではプロジェクト期間が長期に渡ることがあり、想定外のトラブルが発生したり、ステークホルダーが多いために調整が難しくなったりするケースもあります。
こうした「大変さ」や「やりがい」をあらかじめ知っておくことは、IT業界を志望するうえで非常に重要です。うわべだけの「ITは将来性がある」という情報だけではなく、実務の面白さと厳しさの両方に触れられるのが本書の強みです。
2.4 IT業界の課題と未来像を考えられる
本書の後半では、SIerの歴史的背景を踏まえながら、これからのITビジネスがどう変化していくのか、またどのような課題に直面しているのかが整理されています。近年では、クラウドサービスの普及やDXの加速により、従来型のSIerビジネスモデルは変化を迫られています。
一方で、それら新しい技術やサービスを駆使して付加価値を提供できるSIerも増えており、業界内の競争は激化しています。こうした流れを知ることで、「自分がどのようなスキルを身につけていくと市場価値が高まるのか」を考えるきっかけにもなるでしょう。
3. 文系・未経験からのIT就活への活かし方
次に、本書の内容を踏まえながら、文系・未経験の方がIT就活にどう活かせるのかを4つの視点でご紹介します。
3.1 「SIerって何をする会社?」への明確な答えを得る
就活中、あるいはキャリアを模索している段階で、「SIerって具体的にどんなことをする会社ですか?」と聞かれることがあるかもしれません。本書を読むことで、SIerがビジネスを通じてどのような価値を提供しているのか、どんな業務プロセスがあるのかを理解できるため、面接や自己PRの場面で具体的な例を挙げながら答えることができます。
文系出身の場合、技術的な詳細までは難しくとも、ビジネス視点で「コスト削減」「業務効率化」「組織改革」など、SIerが企業に提供しているメリットを整理しておくと説得力のある説明が可能になります。
3.2 プロジェクトマネジメントの基礎を身につける
IT業界の採用面接や業務においては、プロジェクトの進捗管理やコミュニケーションスキルが重視されます。文系の方は、文章力やコミュニケーション力を強みにできることが多いので、本書で学んだプロジェクトマネジメントの基礎を絡めながら自己アピールをすることで、「未経験だけれどプロジェクト運営に貢献できそう」という印象を与えることができます。
たとえば、大学や前職での企画立案・運営の経験があれば、プロジェクト進行における段取りの取り方や調整力に言及してみるとよいでしょう。
3.3 業界特有の課題やトレンドを把握する
SIer業界では、クラウドやDXなど最新の技術が登場することで、ビジネスモデルが大きく変わりつつあります。就活生の立場からすると、「自分がIT業界に入った頃には、どんな課題やトレンドがあるのか」を理解しておくことが重要です。本書は業界の背景や課題を丁寧に解説してくれるので、最新動向とあわせて調べることで、面接時にも説得力のある会話ができるでしょう。
とくに文系の方は、技術的な専門用語を完璧に理解する必要はありませんが、「現場でどんな問題が発生しやすいか」「どういう価値を提供すべきか」を理解しておくだけでも大きなアドバンテージになります。
3.4 キャリアパスのイメージを得る
SIerでは、文系出身であっても営業やコンサルタント、プロジェクトマネージャー、あるいはITコーディネーターなど、多様なキャリアパスが用意されています。本書では、SIerの仕事を通じて得られるスキルや経験がどのようにキャリアアップや転職市場で生きるのかも言及されているため、将来を見据えた職務設計の参考になります。
未経験の方にとっては、「IT業界=技術がわからないと無理」と思いがちですが、実際にはプロジェクト全体を見渡すマネジメント、顧客との折衝、チームとの連携、資料作成など、文系が活かせる領域も多いのです。キャリアの可能性を広げるためにも、「自分が活かせる強み」を具体的に把握する際に役立つでしょう。
4. まとめ
増田博道氏の『SIerの教科書』(技術評論社、2014年6月)は、SIerビジネスの基本的な仕組みからプロジェクトマネジメント、IT業界の課題と未来像までをわかりやすく解説した1冊です。文系・未経験からIT業界を目指す方が最初に読んでおくと、業界の全体像や実務のポイント、必要とされるスキルなどを一通り把握でき、就活やキャリア設計において大きな指針となるでしょう。
特に、SIerという存在が「単なる技術集団」ではなく、ビジネスの課題解決や価値創造を担っていることを理解できる点は大きな収穫です。顧客とのコミュニケーションやマネジメント力が求められる場面が多く、理系だけでなく文系出身者も大いに活躍できる可能性があります。IT未経験であっても、コミュニケーション力や論理的思考力を活かしながら技術を学び、プロジェクトに貢献する道は十分に開かれています。
これから就職活動を始める方は、本書を通じて「SIerの世界」をしっかりイメージし、企業選びや自己PRのベースを固めていきましょう。IT業界は変化が速いからこそ、幅広い知識と柔軟な発想力が求められます。