本記事では、廣瀬泰幸著『新卒採用基準』(東洋経済新報社、2015年)を取り上げます。本書は、企業の新卒採用の現場や採用担当者の考え方を知るうえで非常に貴重な視点を提供してくれる一冊です。IT業界の就職活動に限らず、新卒で就職するにあたって「企業は何を基準に学生を選んでいるのか」「どうすれば自分を魅力的にアピールできるのか」といった疑問を持つ方が多いのではないでしょうか。
とりわけ文系・未経験という立場からIT業界を目指す場合、「専門知識が乏しい自分でも選ばれるだろうか?」と不安になる方もいらっしゃるかもしれません。本書を読むことで、その不安を払拭するだけでなく、自分の強みを再発見して企業にアピールするヒントを得られるはずです。
この記事を読むことで、本書が新卒就活全般はもちろん、IT業界という専門性が重視されがちな領域にチャレンジする文系・未経験の方にもどのように活用できるかが見えてくるでしょう。
1. 書籍の概要
1.1 タイトル
- 新卒採用基準
1.2 著者・出版社
- 著者:廣瀬泰幸
- 出版社:東洋経済新報社
- 発行日:2015年2月6日
著者の廣瀬泰幸氏は、新卒採用や人材育成の専門家として活躍されており、多くの企業の採用活動や教育研修に関わってきた経験をもとに、本書を執筆しています。新卒採用の現場に携わってきたからこそ語れる、生々しい企業側の視点や選考基準が詰まっているといえます。
1.3 本書が取り扱う主な内容
本書は、企業がどのような基準で新卒を採用しているのか、またその基準がどのように変化しつつあるのかを、具体的なデータや著者の経験談を交えながら解説しています。採用担当者が面接の場で重視する要素や、「こういうタイプの学生は避けられやすい」といったリスク要因など、企業側の本音が多数紹介されています。さらに、選考プロセスごとに企業が目を配るポイントや、内定を出す決め手についても非常に丁寧に言及されています。
とくに印象的なのは、学生目線からは「どうしてこんな結果になったのだろう?」と疑問に思うケースについて、企業視点で分析し解説している点です。企業が「学生のどの部分を見ているのか」「なぜ採用基準がそうなるのか」が論理的かつわかりやすくまとめられており、新卒採用という仕組みや動きを総合的に理解するうえでの助けとなります。
1.4 本書の特徴
- 採用担当者のリアルな声を集めている
新卒採用における判断材料や、面接官が注目している具体的なポイントが多数紹介されています。実際の採用担当者の目線を知ることで、「企業は自分のどこを見ているのか」「どういう学生が評価されるのか」がより具体的にわかります。 - 実践的なアドバイスが豊富
面接の受け答えやエントリーシートの書き方に関するアドバイスだけでなく、「企業の人事はどういう姿勢で面接に臨んでいるか」「学生がうまく自分をアピールするためにはどうすればいいか」といった実践的なノウハウが豊富です。 - 採用環境の変化に言及
インターネットが普及し、企業の選考スタイルや学生の就職活動手法は年々変化しています。本書では、この採用環境の変化に合わせて、企業が学生に求める要素や評価のポイントがどのように変わっているのかを、背景とあわせて説明しています。 - 事例中心のわかりやすい構成
企業の採用事例や学生のエピソードが散りばめられており、具体例によって読者がイメージしやすいように工夫されています。専門的な用語に偏ることなく、平易な文章で解説されているため、就職活動をこれから始める方でも理解しやすい内容です。
2. おすすめポイント
ここからは、文系・未経験でIT業界への就職をめざす方にも有用と思われる、おすすめポイントを4つ挙げます。
2.1 企業が採用したい人材像の“本当の理由”を知る
企業が新卒を採用する際、「コミュニケーション能力」「主体性」「リーダーシップ」「論理的思考力」など、さまざまな要素をチェックしていると言われます。本書では、それぞれの要素をなぜ企業が求めているのかを背景から丁寧に説明しています。こうした“本当の理由”を知ることは、選考対策を行ううえで非常に重要です。単に「コミュ力がある」と言うだけではなく、「自分ならではのエピソードで企業が求めている力をアピールする」ためのヒントを得られます。
2.2 複数の企業事例から見える共通点
本書はひとつの企業だけでなく、多数の企業事例を紹介しています。ベンチャーから大手企業まで幅広く取り上げられているため、業界や規模を越えた“新卒採用の共通項”が見えてくるのが強みです。たとえば、「AIやデジタル技術が発展する時代において、結局最後は人柄を重視する」といった結論は、多くの企業に共通する見方として語られています。IT業界を志望する方にとっては、業界特有の要素と一般的な採用基準の両面を把握するのに役立つでしょう。
2.3 選考の流れや評価基準の“裏側”を具体的に解説
新卒採用の選考フローは、エントリーシート→筆記試験→一次面接→二次面接→最終面接、と段階的に進むことが一般的です。しかし、それぞれのステップで「企業が学生のどこを見ているのか」という視点まで深掘りされて説明されることは、意外と少ないもの。本書では、たとえばエントリーシートの志望動機欄では何を重視して読むか、一次面接ではどの程度の専門知識が求められるのか、といった具体的なポイントが詳しく述べられています。文系・未経験であっても「このフェーズならこういうアピールができる」という戦略を立てやすくなるでしょう。
2.4 学生の“成長ストーリー”に注目する重要性
企業は即戦力だけを求めているわけではなく、「入社後どのように成長していくか」を重視しているという点は、新卒採用ならではの特徴です。本書を読むと、企業が見るのは“現時点のスキル”だけでなく、“これまでの挑戦や失敗から学び、変化してきたストーリー”であることがわかります。文系・未経験でも、「学んでいく姿勢」や「物事に向き合うプロセス」をアピールすることで評価される可能性が大いにあるのです。
3. 文系・未経験からのIT就活への活かし方
次に、本書で語られている新卒採用の視点を、文系・未経験からIT業界を目指す際にどのように応用できるか、4つの具体的な活かし方をご紹介します。
3.1 自分の強みを“企業目線”で整理する
本書を読むと、「企業はなぜコミュニケーション能力を重視するのか」「論理的思考力とは具体的にどういう場面で求められるのか」など、企業が求める要素の背景がよくわかります。そこで、自分のこれまでの大学生活やアルバイト経験、サークル活動などを振り返り、企業目線で「強み」を捉え直してみましょう。IT業界といえばテクニカルスキルが重要と思われがちですが、実際のプロジェクト現場ではコミュニケーション能力やチームワークが不可欠です。文系で未経験でも、“強み”を企業が喜ぶ形でアピールできるよう準備することが大切です。
3.2 IT知識よりも“学ぶ姿勢”と“思考プロセス”を見せる
文系・未経験がIT業界を志望する際、一番気になるのは「専門知識の不足」でしょう。しかし、本書の事例からもわかるように、企業は「入社後の成長見込み」を重視しています。ITの専門知識は入社してから身につけることが可能であり、その際に必要なのは“学び続ける姿勢”や“問題解決に取り組む思考プロセス”です。たとえば、大学で取り組んだゼミの研究やサークル活動の中で、どのように課題を設定し、どんな方法で解決に導いたか、そしてその過程で何を学んだのかをしっかり言語化しましょう。
3.3 企業が注目する「論理性」「コミュニケーション力」をアピール
本書には、企業が新卒採用で見るポイントとして「論理性」や「コミュニケーション力」が何度も登場します。文系・未経験でも、論理的に物事を捉え、整理し、相手に伝える能力は普段のレポート執筆やプレゼン、あるいは日常会話でも鍛えられます。また、IT業界の開発現場では、プログラマー同士、あるいは顧客と技術担当者の間で橋渡しをするコミュニケーションが求められる場面が多いのも事実です。自分の経験に即して、「対人関係でどんな工夫をしたか」「チームでプロジェクトを進めるときに意識したこと」などをアピールしましょう。
3.4 企業への“興味・関心”を深堀りして、志望動機に説得力を持たせる
IT企業を受ける場合、「なぜIT業界を選んだのか」が志望動機の肝になるケースが多いです。本書でも、採用担当者は“なぜその業界・その企業を選んだのか”を非常に重視していると述べられています。文系出身であっても、ITの将来性や社会的インパクトに興味があるのであれば、その理由を自分なりに調査し、具体的なデータやエピソードを交えて語れるようにしましょう。「AIやDXに関心がある」「社会問題をITで解決したい」など、自分の“興味・関心”を深掘りし、説得力ある志望動機を作り上げることが大切です。
4. まとめ
本書『新卒採用基準』は、企業が新卒採用を行う際の視点や判断基準を、豊富な事例とともに具体的に紹介してくれる一冊です。学生側が「なぜ落ちたのか」「なぜあの子が受かったのか」と理解しにくい部分が、企業側の立場で見ればどういうロジックや背景があるのかを整理してくれます。
文系・未経験からIT業界を志望する場合、「自分には技術面での強みがない」という不安が出やすいですが、本書を読むと“成長の見込み”や“人間力”こそが重要であるという視点を得られます。その結果、「自分が持っている強みをどのように言語化し、どうやって採用担当者に伝えればいいのか」を学ぶことができます。また、企業研究や志望動機の作り方においても、なぜ企業がそれを求めているのかという背景を理解すると説得力のあるアピールに繋がるでしょう。
特にIT業界は時代とともに技術が変化しやすいので、むしろ「学び続ける姿勢」「チームで成果を上げる意欲」を持った人材が求められています。たとえ文系であっても、学んだ知識を違うフィールドに転用する能力や、深く学習して周囲と協力し合う力は大いに活かせるはずです。本書の視点を取り入れて、企業が見ているポイントを押さえながら、自分の魅力を最大限に伝えられるよう準備してみてください。新卒就活の場において、本書で得た知識がきっと心強い武器になることでしょう。