文系・未経験からIT業界に興味を持つ方の中には、「SIer(エスアイヤー)って聞いたことはあるけれど、実際にはどんな仕事をする会社なのかよくわからない」という方も多いかもしれません。IT業界にはソフトウェア開発企業やハードウェアメーカー、コンサルティングファーム、Web系ベンチャーなど多種多様な企業がありますが、その中でも「SIer」はシステムインテグレーション(System Integration)を主な事業とする企業を指します。
本記事では、「SIerの営業職」にフォーカスして、具体的な仕事内容や求められるスキル・知識、やりがい、キャリアパスなどを詳しく解説します。「営業職=モノを売る仕事」というイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、SIerの営業はIT業界ならではの特徴があり、他の業界の営業とは少し異なる部分もあります。文系出身・未経験でもチャレンジしやすいポイントや、就職活動で押さえておくべきポイントも併せて解説していきます。ぜひご参考ください。
1. SIerとは?
1-1. SIerの役割
SIer(System Integrator)とは、企業のシステム導入や構築・運用を一括して請け負う企業のことを指します。クライアント企業が抱える課題や要望をヒアリングし、それらを解決・実現するために最適なITシステムを設計し、必要なソフトウェアやハードウェアを組み合わせ、導入から運用までをサポートします。
IT業界において、システム開発はもちろん、プロジェクトマネジメントやコンサルティングなど、幅広い業務を行うのが特徴です。大手のSIerの場合、銀行や保険会社、自治体など、社会的なインフラを支える大規模システムに携わることも多く、国や大企業からの大型案件を手掛けることもしばしばあります。
1-2. 開発会社やソフトウェアベンダーとの違い
「SIer」と似た文脈で「ソフトウェアベンダー」「開発会社」という言葉が登場しますが、それらとSIerとの大きな違いは「提供する範囲の広さ」にあります。
ソフトウェアベンダーは自社製品を開発・販売し、クライアントにソフトウェアを導入してもらう形が中心です。一方でSIerは、特定のソフトウェアやハードウェアに限定されず、必要に応じて複数の製品を組み合わせ、クライアント企業に合わせたシステムを構築します。最終的に「クライアント企業の課題を解決するITソリューション」を一気通貫で提供するという点が、SIerの特徴と言えるでしょう。
2. SIer営業の全体像
2-1. SIer営業の基本的な流れ
SIerの営業職は、クライアント企業との最初の接点となる重要な役割を担います。一般的に、以下のような流れで営業活動が行われます。
- アプローチ
- 展示会やセミナー、業界ネットワークなどを通じてクライアント候補を探す
- 既存顧客からの新たな課題をヒアリングする
- ほかの部署から紹介されるケースもある
- ヒアリング・提案
- クライアントの経営課題や業務フローなどを詳しくヒアリング
- エンジニアやコンサルタントと連携し、解決策となるシステムやサービスを検討・提案する
- 見積・契約
- 提案内容に基づき、開発コストや導入にかかる期間などを試算して見積書を作成
- 契約条件やプロジェクトスケジュールを交渉し、合意の上で契約を締結
- プロジェクト進行サポート
- 契約後もクライアント企業の担当窓口として、プロジェクトの進行状況を把握
- 必要に応じてエンジニアやコンサルタントと調整し、課題の解決や追加提案を行う
- フォロー・拡販
- システム導入後の運用サポートや保守の提案を通じて、長期的な関係構築を図る
- クライアントの新たな要望に応じて追加開発や新システム導入を提案する
このように、SIerの営業は「導入して終わり」ではなく、その後のフォローや追加提案まで含めた長期的なアプローチが求められる点が特徴です。
2-2. 営業の種類
SIerの営業には大きく分けて2種類のスタイルがあります。
- 既存顧客担当(ルートセールス)
すでに取引のある顧客を担当し、定期的にコミュニケーションを取りながら新たな課題やニーズをキャッチアップしていきます。顧客が複数のプロジェクトを並行して行っている場合は、案件ごとに担当を分けることもあるため、社内の調整力も重要です。長期的な信頼関係の構築が必要であり、その分じっくりと顧客企業の業務理解を深められるのがやりがいでもあります。 - 新規顧客担当(ハンターセールス)
まだ取引のない企業を対象に営業活動を行い、新たなプロジェクト受注を目指します。ITセミナーや展示会、業界のコミュニティなどに参加するほか、紹介や広告から問い合わせを受けるケースもあります。新規開拓ならではのスピード感や挑戦的な雰囲気があるため、積極的に成果を出したい方には向いているでしょう。
企業規模や事業内容によっては、既存顧客担当と新規顧客担当を兼任するケースも多いです。配属後は上司やチームメンバーとともに、担当先の業界や企業特性を学びながら営業活動を行うことになります。
3. SIer営業が具体的に行う業務
3-1. クライアントへのヒアリング
SIer営業の大きな特徴として、クライアントが求める「解決したい課題」や「目標達成」のために、まずは詳しいヒアリングを行う必要がある点が挙げられます。ITシステムはあくまでも手段であり、クライアントが何を達成したいのかを正確につかむことが最初のステップです。
- どんな業務フローで、どんな問題が起きているのか
- 予算やスケジュールの制約はあるのか
- 将来的にどのようなビジョンを描いているのか
こうした情報を丁寧に引き出し、エンジニアやコンサルタントと共有しながら最適解を導いていくのがSIer営業に求められる役割です。
3-2. 提案書・見積書の作成
クライアントの要望をもとに、社内のエンジニアやプロジェクトマネージャーと連携しながら、どのようなシステムを、どのような技術で、どのくらいの期間・予算で導入可能なのかを検討し、提案書や見積書を作成します。
この段階では、ITに関する基本的な知識はもちろん、プロジェクトの進行にかかる工数や開発コストなどを概算で計算できる能力が必要となります。もちろん未経験者がいきなり正確に算出するのは難しいため、最初はチームメンバーとともに進めることになるでしょう。
3-3. 契約交渉・スケジュール調整
クライアントと具体的な条件面を詰めていく場面では、金額面だけでなく、開発スケジュールや保守体制、成果物の範囲など、詳細を調整する必要があります。ここでは「コミュニケーション力」と「調整力」が求められます。
- クライアントの担当者(時には経営層も)からの要望をうまく吸い上げて社内に伝える
- 社内の開発チームの状況や技術的な制約をクライアントへわかりやすく説明する
- 双方に納得してもらえる着地点を模索しながら折衝する
SIer営業はクライアントとエンジニアの間をとり持つ “架け橋” となるポジションなので、コミュニケーションに自信がある方に向いていると言えます。
3-4. プロジェクト進行のフォロー
開発プロジェクトがスタートすると、営業担当はクライアントの窓口として、プロジェクトマネージャーやエンジニアと連携しながら進行状況を把握します。課題が発生した場合は、クライアントに迅速に報告・相談したり、追加見積が必要な場合は都度提案を行ったりするなど、プロジェクトが円滑に進むようにサポートする役割があります。
開発作業の中心はエンジニアが担いますが、営業も状況を常に把握し、問題が発生した場合は適切に調整役を担わなければなりません。
3-5. 保守・運用の提案
システムが無事に稼働を開始した後も、クライアントのニーズは変化し続けます。業務拡大によるシステム拡張の必要や、DX推進による新たなシステム開発の要望が出てくることも少なくありません。そこで営業担当が、追加の開発や運用サポートの体制などを提案し、長期的にクライアントを支援します。
SIerは一次請けで大規模プロジェクトを担当する企業も多く、そこで築いた関係をもとに新たな案件を受注することもしばしば。大きなプロジェクトが終わった後も、長いスパンでクライアントと付き合っていくのがSIer営業の特徴です。
4. SIer営業に必要なスキル・知識
4-1. ITリテラシー
文系・未経験からでもSIerで営業として活躍することは可能ですが、最低限のITリテラシーは必要になります。プログラミング言語やネットワークの仕組みなど、すべてを深く理解する必要はありませんが、
- 「クラウド」や「オンプレミス」などの基本的な用語
- システム開発の工程(要件定義、設計、開発、テスト、運用、保守)
- プロジェクトマネジメントの考え方
といった基礎的な知識を身につけておくと、社内外とのコミュニケーションがスムーズになります。
4-2. コミュニケーション力・調整力
SIerの営業は、クライアントの要求とエンジニアの技術的な制約との間を取り持つ役割を担います。したがって、双方に対してわかりやすく説明を行い、意見の相違があれば調整を進めていくコミュニケーション力が不可欠です。
・クライアントには、技術的な話をかみ砕いて伝える
・エンジニアには、クライアントが抱えるビジネス上の課題を正しく理解してもらう
調整が上手くいかないと、プロジェクトが遅延したり、追加コストがかかったりする可能性があります。多様なステークホルダーと折衝する力が求められるのが、SIer営業の大きな特徴でもあります。
4-3. 提案力・問題解決力
クライアントが抱える課題をどのように解決に導くかを提案するのがSIer営業の醍醐味です。ITに関する最新のトレンドや製品知識などをキャッチアップしつつ、クライアントのビジネス構造や業務フローを理解して最適解を提示する必要があります。
常に「顧客の課題を解決するには何が最適か?」という視点を持ち、自社の製品やサービス、さらには外部パートナーのソリューションも含めて最適な組み合わせを考えることが重要です。
4-4. チームワーク・マネジメント力
SIerの案件は大規模になることが多いため、営業がひとりで対応できる範囲を超えます。エンジニアやプロジェクトマネージャー、さらには外部ベンダーやパートナー企業など、多くの人々との連携が必要になります。そこでは、チームワークを重んじて協力し合う姿勢や、リーダーシップを発揮して複数のステークホルダーをまとめるマネジメント力が求められます。
5. SIer営業のやりがい・魅力
5-1. 大規模プロジェクトに携われる
大手のSIerでは、社会インフラを支える巨大システムの構築に関わるチャンスがあります。数千人規模のプロジェクトや、数年単位で進める長期開発など、スケールの大きい仕事に携われるのは、他の業界ではなかなか得られない経験です。
完成したシステムが世の中で稼働していることを実感でき、社会の基盤を支えているという達成感は、SIer営業の大きなやりがいと言えるでしょう。
5-2. 深い信頼関係を築ける
SIerの営業は、一度契約して終わりではなく、その後の保守運用や追加開発など、長期にわたってクライアントと関わり続けます。クライアント企業のビジネスモデルを深く理解し、伴走しながら成長をサポートしていくため、密接な信頼関係が構築されやすいです。
相手企業から「〇〇さんが担当でよかった」「あなたに任せれば安心」と言われる瞬間は大きな喜びとなるでしょう。
5-3. ビジネス全体を俯瞰できる
クライアントの経営方針や業務フロー、ITシステム全般に関わるため、ビジネス全体を俯瞰する視点が身につきやすいのも特徴です。「ITの知識+ビジネスの理解」を兼ね備えた人材は市場価値が高いため、将来的なキャリアアップにも有利です。
6. 文系・未経験からSIer営業を目指すポイント
6-1. IT基礎知識の習得
文系・未経験からSIer営業を目指す場合、やはり最初のハードルは「ITに対する基礎知識」です。入社前にすべてを習得する必要はありませんが、最低限のIT用語やシステム開発工程、クラウドやセキュリティの基本概念などには触れておくと良いでしょう。
例えば、ビジネス向けのIT書籍やオンライン学習プラットフォームを活用し、IT全般に関する初歩的な知識を身につけておくと面接時にも役立ちます。
6-2. コミュニケーション力のアピール
選考の場では、「コミュニケーション力」や「調整力」を具体的なエピソードでアピールできると評価されやすいです。大学時代のゼミ活動やアルバイト、サークル運営などの経験の中で、何かの課題を解決したり、チームをまとめたりした経験があれば、その過程を整理してエピソードとして伝えると良いでしょう。
SIer営業は人と人をつなぐ仕事ですので、「自分はどのように相手の意見を引き出し、どのように合意を形成していったか」を具体的に語れると面接官に伝わりやすくなります。
6-3. SIerのビジネスモデルを理解する
志望企業によって、扱うプロジェクトの規模や業界、提案するソリューションの種類が異なります。応募する企業のホームページやニュースリリースなどをチェックし、主にどの分野で強みを持っているSIerなのか、どのような実績があるのかなどを把握しておきましょう。
自分のやりたいことや強みを、企業が求める人物像や業務内容と関連付けてアピールすることが大切です。
6-4. 長期視点でのキャリアを描く
SIerの営業は短期間で大きな成果を上げるというよりも、長期的にクライアントと信頼関係を築き、継続的に案件を獲得していく仕事です。そのため、「長いスパンで成長していきたい」「顧客との関係を深めながらじっくり課題解決に取り組みたい」という姿勢を示すと好印象を与えやすいでしょう。
また、5年後、10年後に自分がどのようなエンジニアやコンサルタント、あるいはマネージャーになりたいのかといったキャリアパスを考え、それを志望動機に盛り込むのも有効です。
7. まとめ
SIerの営業は、IT技術そのものを扱うというよりも、クライアントの課題をITを通じて解決するための“コーディネーター”としての役割を担うポジションです。文系・未経験であっても、「人と接するのが好き」「問題解決にワクワクする」「長期的な関係構築で信頼を得ることにやりがいを感じる」という方であれば、十分にチャレンジできる職種と言えます。
- 大規模プロジェクトや社会インフラに携わる機会がある
- 長期的な関係構築を通じてクライアントのビジネスを支える
- ITとビジネスの両面に触れられ、市場価値の高いスキルを身につけられる
このような魅力がある一方で、日々のコミュニケーションや調整は欠かせず、技術のキャッチアップや新たなビジネストレンドへの対応が必要とされる大変さもあります。しかし、それらを乗り越えた先には、大きな達成感ややりがいが待っています。
就職活動の際は、ぜひ志望するSIer企業の特徴や強みを調べ、自分の志向性や将来像と照らし合わせてみてください。文系・未経験であっても、着実に知識を身につけ、チャレンジ精神を持って臨めば必ず道は開けます。IT業界の入り口としてSIer営業に興味を持った方は、ぜひ積極的に情報収集を進めてみてください。皆さんのIT就活が実り多いものとなるよう、心から応援しています。