本記事では、池上純平氏が著した『完全SIer脱出マニュアル』(シーアンドアール研究所、2019年7月)について、文系・未経験からIT業界への就職を目指す方の参考になるような観点で書評をまとめています。本書は、SIer企業に勤めるエンジニアやIT系職種の方が、より自分らしくスキルアップを図り、キャリアを切り開いていくためのヒントが多数盛り込まれた一冊です。
文系・未経験からIT業界を目指す場合でも、IT業界内部の構造や求められるスキルセットを知り、自らのキャリア選択に活かすうえで多くの学びが得られます。この記事では、本書の概要や特徴、おすすめポイント、そして本書を文系・未経験からのIT就活にどう活かせるかをご紹介していきます。
1. 書籍の概要
1.1 タイトル
完全SIer脱出マニュアル
1.2 著者・出版社
- 著者:池上純平
- 出版社:シーアンドアール研究所
- 出版年月:2019年07月
著者の池上純平氏は、自身もSIer出身のエンジニアとしてキャリアを歩んできた経験があります。SIer特有の開発プロセスや働き方に疑問を持ったことで、転職を通じて新しい職場環境やキャリアパスを模索し、そのプロセスと学びをまとめたのが本書です。IT業界の構造やエンジニアとしての立ち回り方、さらにエンジニアリング以外の視点も含め、幅広い視点を提供してくれます。
1.3 本書が取り扱う主な内容
本書では、「どうやってSIerから抜け出し、自らの市場価値を高めるか」という観点を中心に、ITエンジニアが直面しやすい課題を取り上げています。具体的には下記のようなテーマが含まれます。
- SIerとWeb系企業、スタートアップ企業の違い
- プロジェクトの進め方、開発手法、働き方・組織カルチャーの違い
- どんな人材が求められているか
- スキルアップの方法論
- 技術的なスキルセットの習得方法
- マネジメントやコミュニケーションなどのヒューマンスキルの重要性
- 転職を含めたキャリア設計
- 転職サイトやエージェントの活用方法
- 自らの強みと志向を把握し、キャリアの方向性を明確にする
- セルフブランディングと情報発信
- 個人のポートフォリオやSNSを活用する意義
- どのようにアピールすればスカウトや評価につながるか
文系・未経験の方にとっては、「現場のエンジニアはどのようなキャリア意識を持っているのか」「SIerとWeb系企業との違いは何か」「エンジニアリングに必要な基礎スキルとは何か」などが明確になりやすい内容となっています。
1.4 本書の特徴
- リアルな体験談・転職の成功例/失敗例が豊富
著者自身や周囲の経験がベースになっているため、リアリティをもって読めます。ただ単に「やり方」だけを示すのではなく、実際に起こりうる課題や挫折についても具体例があるので、読者が自分の状況と照らし合わせやすいです。 - 技術の具体的な学習指針だけでなく、マインドセット面もカバー
スキルセットだけでなく、「自分は何をしたいのか」「どんな働き方をしたいのか」という、キャリア形成の根本を考えるきっかけを与えてくれます。特に未経験の方やキャリア選択に悩んでいる方にとって、自分の意志を明確にするヒントが多い点は大きな魅力です。 - 企業選びや転職のノウハウが充実
新卒採用だけでなく転職を念頭に置いた内容ですが、企業研究や採用選考における心構えなどは、新卒・第二新卒としての就活でも十分に参考になるポイントがあります。 - 「SIer vs. Web系」「大企業 vs. スタートアップ」の構造を客観的に解説
一般的に語られがちな「SIer=安定」「Web系=自由でスピード重視」といったイメージに対して、その背景にある組織体制・ビジネスモデルの違いを丁寧に解説しています。自分に合ったキャリア・働き方を考える上で、知っておきたい視点が得られるでしょう。
2. おすすめポイント
ここからは、本書を読んで特に「これは役立つ」と感じられるポイントを4つに分けてご紹介します。
ポイント1:現場目線での「SIerあるある」や具体的な課題認識
本書の大きな強みの一つは、著者が実際にSIerで働いてきた経験をもとにしているため、“あるある”として共感できる課題やエピソードが多数掲載されている点です。納期や契約形態の硬直性、コミュニケーションの煩雑さ、技術選定の余地の少なさなど、SIer業界では日常的になりやすい問題を非常にわかりやすく解説しています。こうした具体的な課題が分かることで、自分がもし同じ環境に入った場合のイメージをつかみやすくなります。
ポイント2:スキルアップや転職の“ロードマップ”がわかりやすい
また、本書ではSIerからWeb系企業やスタートアップなどへ転職を考える際に、どのようなスキルや実績が求められるのか、そしてそのために何をどう学ぶのかが段階的に示されています。いわゆる「イラストで見る転職フロー」や「資格取得だけでは測れないスキルセット」など、エンジニアとして「市場価値を高める」考え方が整理されています。技術だけでなく、企画立案力やチーム内での協働スキルなどの重要性も取り上げられているのが特徴です。
ポイント3:セルフブランディングの方法が丁寧に解説されている
多くのITエンジニアが感じている課題のひとつに、「自分の強みをどう発信するか」という問題があります。本書では、技術ブログやSNS、GitHub、Qiitaなどを活用して成果物やノウハウを発信する具体的なやり方、発信を続けることによるメリット、そして採用担当者やエージェントから見られるポイントなどが整理されています。「文章が得意ではない…」「まだ大きな実績がない…」と感じている人でも少しずつ始められるステップが書かれているので、文系や未経験の方でも応用できるのが魅力です。
ポイント4:未来志向のキャリア形成への考え方
本書では、現役のエンジニアが抱えがちな不安や悩みを解決するだけでなく、**「未来に向けてどう動くか」**が重視されています。特にSIerの現場では、大きな案件を回すために多くの調整や管理を行うケースが多い一方、モダンな開発手法や最新技術に触れる機会が限られる場合もあります。その状況下で「自分のやりたいことと社会のニーズがどう交わるのか」「エンジニアリングを通じてどんな価値提供をしたいのか」といった視野を広げることが大切だと説きます。これが単に今の環境から“逃げる”だけではなく、“次のステージで何をしたいか”を見据える貴重な示唆につながっています。
3. 文系・未経験からのIT就活への活かし方
ここからは、本書の内容を文系・未経験の方がどのように活かせるか、4つの観点で解説します。
活かし方1:「SIer」「Web系」「スタートアップ」の違いを押さえる
文系・未経験でIT業界を目指す方にとって、まず最初の大きな壁が「IT企業の分類や特徴がわからない」という問題かもしれません。本書ではSIerの特徴だけでなく、Web系やスタートアップとの比較が詳しく解説されています。なぜ働き方や開発手法が違うのか、どんなスキルが求められるのかといったポイントを押さえておくことで、就活の際に「自分がどのタイプの企業を志望しているのか」を明確化できます。これによって企業リサーチや自己PRの軸が作りやすくなるでしょう。
活かし方2:転職ノウハウを“新卒/第二新卒の就活”に応用する
本書は転職前提のノウハウが中心ですが、「企業研究の仕方」「面接・書類選考で見られるポイント」などは、未経験での新卒/第二新卒就活にも応用できる内容が豊富です。特に文系の方は、論理的な思考力やコミュニケーションスキルをアピールすることでエンジニア職としての素養を示す場面が多くあります。本書で紹介されるように、自分の経験のどの部分がIT業界で活かせるのかを見つけ、“言語化”しておくことが重要です。
活かし方3:セルフブランディングと発信を学び、実践する
未経験からITに挑戦する場合、「自分はまだコーディングが得意とは言えない」「実務経験がない」といったコンプレックスを持ちやすいですが、本書では情報発信を通じて学びの過程を可視化し、自分の成長や強みをアピールする手法が詳しく紹介されています。ブログやSNSで学習の記録を継続的に発信する、GitHubやQiitaに小さな成果物でも載せてみる、といった行動は、採用担当者から見れば「行動力」や「学習意欲」の証拠になります。文系でも文章力を活かしてIT学習の過程をまとめていけば、ポートフォリオの一種として大いに評価される可能性があります。
活かし方4:キャリア形成の視野を広げる
文系・未経験からIT業界を目指すとき、往々にして「プログラミングがどれだけできるか」ばかりがクローズアップされがちです。しかし本書が提示する「キャリアの広い選択肢」や「市場価値の高め方」を読むと、IT業界には技術力のみならず企画力や調整力を発揮できるポジションもあることに気づかされます。たとえばプロジェクトマネジメント、ITコンサルタント、テクニカルライティング、Webマーケティングなど、「自分の興味・得意分野を活かしてITと掛け合わせる」ことで新たな可能性が開けるのです。そうした視野の広がりは、就職活動の際にも志望企業の幅を増やし、自分に最適な職場を見つける助けになるでしょう。
4. まとめ
『完全SIer脱出マニュアル』は、SIerで働くエンジニアやIT職種の方が、よりスキルを活かせる・磨ける環境へ飛び立つための具体的な方法や考え方を解説した一冊です。しかし、文系・未経験からIT業界を目指す方にとっても、IT業界の構造理解やセルフブランディング、キャリア形成のヒントを豊富に得られる良書といえます。
特に、SIerとWeb系企業・スタートアップなどとの違いを理解した上で、自分のやりたいことや身につけたいスキルを見極めるプロセスは、未経験から就活を始める方にとっても非常に重要です。本書は、ただ漠然と「エンジニアになりたい」「IT業界で働きたい」と考えている人に対して、具体的な行動と学びのステップを提示し、「自分が本当に目指したい姿」を言語化する手助けをしてくれます。
また、転職を見据えた内容ではありますが、「企業研究の仕方」「書類選考・面接のポイント」「ポートフォリオやSNSの活用方法」といったノウハウは新卒や第二新卒の段階でも応用できるものばかりです。文系の方であっても、自分のバックグラウンドを活かしてITと組み合わせられる領域を模索し、プロジェクト運営や企画、クリエイティブ面の強みを打ち出すきっかけになるでしょう。
最後に大切なのは、本書が繰り返し説いている「自分はどんなキャリアを歩みたいのか」という軸を定めること。SIerからWeb系企業へ、あるいは大企業からスタートアップへと環境を変えることは、あくまで手段です。自分が本当にやりたいことは何か、そのためにどのようにスキルアップしていくのかをじっくり考える材料として、本書の内容を参照してみてください。
文系・未経験からIT業界へ踏み出そうとする皆さんにとって、『完全SIer脱出マニュアル』は、IT業界の全体像を知り、自らのキャリア形成を考える上で刺激的な情報源となるはずです。ぜひ手に取って、自分なりの“キャリア脱出マニュアル”を描いてみてはいかがでしょうか。