【書評】SI企業の進む道

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本記事は、室脇慶彦氏著『SI企業の進む道』(日経BP、2022年12月12日刊行)の書評としてまとめたものです。

本書では、システムインテグレーター(以下、SI企業)が置かれた現状と未来の展望、そこで働く人たちに求められるスキルや姿勢などが幅広く取り上げられています。文系・未経験の方にとっては、「IT業界といってもいろいろあるけれど、実際のところSI企業ってどんな仕事をしているの?」という疑問に答えてくれる一冊です。

本記事を通じて、IT業界全体を俯瞰しながら、自身のキャリア形成に役立つヒントを得ていただければ幸いです。

1. 書籍の概要

1.1 タイトル

『SI企業の進む道』

1.2 著者・出版社

  • 著者:室脇 慶彦
  • 出版社:日経BP
  • 刊行日:2022年12月12日頃

著者の室脇慶彦氏は、長年にわたってIT業界、とりわけSIビジネスの在り方を研究・コンサルティングしてきたエキスパートです。日々刻々と変化するIT業界の潮流を捉えながら、業界全体を俯瞰する視点と、企業内部で起きている課題を具体的に示す洞察力に定評があります。本書も、その経験と知見が余すところなく注ぎ込まれた内容となっています。

1.3 本書が取り扱う主な内容

  1. SI企業の現状と課題
    • DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速
    • クラウド技術やサブスクリプション型ビジネスの普及
    • 人材不足と人材育成の重要性
      こうした大きな潮流の中で、SI企業はどんな課題に直面しているのかを整理し、それがなぜ起きているのかを考察しています。
  2. ビジネスモデルの多様化
    • 従来型の受託開発からコンサルティングやサービス提供型へのシフト
    • AI・IoTなど先端技術を活用した新規事業の可能性
    • アジャイル開発、ローコード/ノーコードなど新しい開発手法
      SI企業が競合他社や海外ベンダーとの競争に勝ち抜くために、どんなビジネスモデルを模索しているのか、具体的な企業事例を交えながら解説しています。
  3. SI企業で働く人材に求められるスキルやマインドセット
    • プログラミングやインフラ構築といった技術的な能力だけでなく、プロジェクトマネジメントやコンサルティング力が求められる
    • 顧客企業の業務プロセスを理解し、経営課題に踏み込むコミュニケーション力・提案力の重要性
    • 成長市場に対応するための学習意欲と柔軟な思考
      など、IT技術者としての枠を超えて必要とされるスキルセットを提示しています。
  4. 今後のSI企業の展望
    • DX推進がさらに広がる中で、SI企業はどう活躍していけるのか
    • 自社プロダクト開発や海外進出の可能性
    • 取引先とのコラボレーションやエコシステムの形成
      本書では、単なる現状分析で終わらず、これからのSI企業がどのような方向を目指すべきかが明確に示されています。

1.4 本書の特徴

本書の大きな特徴は、SI企業の内側から見たリアルな視点と、IT業界全体を俯瞰する第三者的な視点が巧みに融合している点です。業界コンサルタントとしての客観的な分析に加え、具体的なインタビューや事例紹介が多く盛り込まれているため、「現場ではどのような課題が起きているのか」「どんな人材が不足しているのか」などが立体的に理解できます。

また、専門用語が多くなりがちなIT業界の話題を、できるだけ平易な言葉で説明している点も特徴です。文系の方やIT未経験の方でも読みやすく、実践的な知識を得ながら「IT業界のいま」を掴むことができるでしょう。

2. おすすめポイント

2.1 SI企業の現状を正しく理解できる

IT業界は変化が激しく、「クラウド」「DX」といった言葉がメディアを賑わす一方で、SI企業の具体的な業務内容やビジネス構造は外部からは見えにくいものです。本書では、SI企業がビジネスをどのように展開しているのかを体系的に解説しており、現状を正しく理解する上で欠かせない情報源となっています。
特に、SIビジネスの収益構造やプロジェクトの進め方、人材の配置などが具体的に示されているため、「SI企業はどうやってお金を稼いでいるのか」「実際にどんな部署や業務があるのか」といった根本的な疑問をクリアにできます。

2.2 数多くの企業事例や実践的なエピソードが紹介されている

「SI企業」と一口にいっても、得意分野や企業文化は様々です。本書には、大手総合系から中小特化型、さらには自社サービスを持つベンダーまで、幅広い事例が取り上げられています。
それぞれの企業が直面した課題と、それをどう解決したかというエピソードを知ることで、SI業界のダイナミックさや実際の仕事の難しさをイメージしやすくなるでしょう。就職活動の際にも、具体的な事例を踏まえて「自分はこういう企業で働きたい」「こんなプロジェクトに携わりたい」という自己分析がしやすくなります。

2.3 エンジニアに限らず、コンサルティングやマネジメント人材にも役立つ知見

SI企業は、顧客企業と密接にやり取りしながらプロジェクトを進めます。そのため、純粋な技術者だけではなく、顧客企業のビジネスを理解して戦略提案を行うコンサルタントや、プロジェクト全体を統括するマネージャーなど、さまざまなスキルセットの人材が必要とされます。
本書は、こうした職種の重要性にもスポットを当てているため、文系・未経験であっても「IT業界では技術スキルだけでなく、ビジネス視点やマネジメントスキルも求められる」という現実を踏まえて、キャリアの方向性を考えることができます。

2.4 「これからのSIの姿」や「将来のキャリアパス」を考える指針になる

SI企業は近年、クラウドの普及やDXの浸透に伴い、ビジネスモデルを変革するフェーズに入っています。本書では、「今後SI企業がどのように成長し、どんなサービスを展開していく可能性があるのか」「そこで働く人材がどんなキャリアパスを描けるのか」が示されています。
就活中の方にとっては、今後拡大が見込まれる技術やサービス領域を知ることで、自分の興味関心や強みをどこで活かすかを考えるヒントとなるでしょう。「業界の将来像を見据えながら、自分が活躍できる道を模索する」ことは、これからIT企業を選ぶ上で非常に重要です。

3. 文系・未経験からのIT就活への活かし方

3.1 SI業界の役割を理解し、応募企業を選ぶ基準を明確にする

IT業界というと、ソフトウェア開発会社やWeb系サービス企業、コンサルティングファームなど、さまざまなタイプがあります。特にSI企業は、企業の基幹システムや業務システムを構築・運用するケースが多いため、企業の経営や業務と直結した重要な領域を担っています。
本書を読むことで、SI企業が具体的にどのような役割を果たしているのかを理解し、それが自分の興味や将来像と合うのかを見極めることができます。「金融業界に強いSI企業」「クラウドサービスに特化したSI企業」「コンサルティング機能を重視しているSI企業」など、自分の志向に合った企業を選ぶ基準を作るのに役立つでしょう。

3.2 ITプロジェクトの流れを把握し、面接や自己PRに活かす

未経験者がIT業界に飛び込む際に不安に思うのは、「プロジェクトがどう進むのかイメージできない」という点です。本書では、要件定義→設計→開発→テスト→運用保守という一連のプロセスだけでなく、プロジェクト開始前のコンサルフェーズや、顧客企業との契約形態、進行管理といった実務の流れもカバーされています。
面接や自己PRで「どの工程で何が行われるか」「自分はその工程でどんな役割を担いたいか」を具体的に語れるようになると、企業側に「この人は現場をイメージしている」「IT業界の仕事を理解している」という印象を与えやすくなります。文系スキルを活かすなら、コミュニケーションが多い要件定義フェーズや、調整業務・企画提案の部分などに強みをアピールするのも効果的でしょう。

3.3 文系スキルを活かせる領域を見つける

SI企業では「プログラミングができる人材」だけでなく、顧客折衝や課題ヒアリングなど、ヒューマンスキルを活かす領域も豊富に存在します。本書の事例紹介を通じて、ビジネスサイドの業務やコンサルティング業務に携わる社員の声などを知ることで、「自分の得意なコミュニケーション力や文書作成力は、どの部分で評価されるのか」を見出しやすくなるはずです。
たとえば、文系出身者が得意とする情報整理やプレゼンテーションの能力は、要件定義や提案の場面で大いに活用できます。また、クライアントの業界知識を身につけておけば、課題を的確に分析し、より付加価値の高い提案ができるでしょう。こうした視点を本書で学んでおくと、入社後のキャリアパスのイメージがより明確になります。

3.4 新しい技術やサービスの潮流を理解し、長期的なキャリアを見据える

IT業界は新技術の登場が早く、エンジニアであっても学び続ける姿勢が求められます。本書では、クラウドネイティブ、ローコード/ノーコード、AIやIoTを使った高度なシステム構築など、最新の技術トレンドに触れています。文系・未経験者の方は、まずは「IT業界で何が起きているのか」「これらの技術がどんなインパクトを与えているのか」を俯瞰して理解することが大切です。
長期的には、技術を少しずつ学ぶことでプロジェクトをより深いレベルでサポートしたり、顧客企業の課題解決に新しいアイデアを提供したりする場面も増えてきます。「自分のキャリアをどうステップアップさせていきたいか」「どの技術領域を習得したいか」といった目標を持つことで、入社後の学習意欲も高まるでしょう。

4. まとめ

文系・未経験からIT業界、とりわけSI企業への就職を目指す方にとって、室脇慶彦氏の『SI企業の進む道』は、業界構造を理解しつつ、自身の強みを活かす具体的なヒントを得られる貴重な一冊といえます。DXやクラウド化が進む中で、SI企業の役割はますます重要になっており、従来の「裏方」的なシステム開発から、企業のビジネス価値を創出するパートナーへと立ち位置が変わりつつあります。

文系・未経験の方でも、コミュニケーション力や分析力、業務を俯瞰する視点などを武器に、コンサルティングやプロジェクトマネジメントの分野で大きく活躍できる可能性があります。本書では、そうした新しい活躍の場がどのように生まれ、求められる人材像が何かを具体的に示してくれるのが強みです。

就活を進めるうえで、「SI企業はどんな課題を解決しているのか」「どんな価値を提供しているのか」を理解しているかどうかは、面接や志望動機の説得力を左右します。また、将来的に身につけるべき技術領域の選定や、自分のキャリアパスを描く際にも、本書に書かれているビジネスモデルや事例は大いに参考になるでしょう。

IT業界全体を見渡すと、プログラミング力だけでなく、コンサルティング力や経営視点を併せ持つ人材がますます求められています。文系や未経験というハンディキャップを感じる方もいるかもしれませんが、逆に「システムの使い手や顧客企業側の視点が持てる」という強みに繋がる可能性もあります。本書を活用しながら、SI企業のビジネスや職務内容に関する理解を深め、自分ならではの強みを活かせる道を探ってみてください。今後の就職活動において、自信を持って自分の可能性をアピールできるきっかけとなるはずです。

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