本記事は、書籍『これからのSIerの話をしよう』(著:梅田弘之、出版社:インプレス、2017年)についてIT業界の中でも特にSIerという領域に焦点を当てた本書の魅力や学びどころを、就活を検討している皆さんの観点からまとめています。
文系出身・未経験でも「SIerって何?」「IT業界の中でもどんな働き方をするの?」といった疑問をお持ちの方に、ぜひ参考にしていただければと思います。
1. 書籍の概要
1.1 タイトル
『これからのSIerの話をしよう』
1.2 著者・出版社
- 著者:梅田 弘之
- 出版社:インプレス
- 出版年:2017年9月
著者の梅田弘之氏は、長年IT業界に身を置き、SIerとしての実務経験だけでなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)が求められる現代におけるビジネスモデルの変革・組織改革などにも精通しています。IT企業の経営層やエンジニアに対して情報発信を続ける中で培われた知見を、本書ではSIerの過去・現在・未来に焦点を当ててまとめています。
1.3 本書が取り扱う主な内容
本書では、日本のIT業界におけるSIer(システムインテグレーター)の役割を中心に、「これまでのSIer」と「これからのSIer」の変遷、そしてクラウド化やAI時代の到来によって求められる新たなビジネスモデルについて解説しています。具体的には以下のようなテーマが取り上げられます。
- SIerとは何か:システムの設計・開発・導入・運用まで、企業のIT活用をトータルで支援するSIerの役割を概説。
- SIerの歴史:日本のIT産業の成長とともにどのようにSIerが発展してきたのかを紹介。
- ITの変遷とビジネスモデルの変化:オンプレミス中心からクラウドやSaaS(Software as a Service)へのシフト、それに伴うアジャイル開発やDevOpsの台頭など、ITの変化に伴うSIerの仕事の変容。
- これからのSIerに必要なスキルやマインドセット:技術的な知識だけでなく、コンサルティング力、コミュニケーション能力、柔軟な発想力など、SIerが新たに求められる能力。
- 既存ビジネスからの脱却と価値提供の方向性:コスト削減や技術力の提供だけではなく、クライアント企業の事業そのものを改善・拡大するための支援を行う存在として、どう舵を切るべきか。
こうした内容は、これからIT業界を目指す文系・未経験者にとって、「SIer」という仕事の全体像を知り、そこにおける自分の活躍可能性を探るうえで非常に参考になります。
1.4 本書の特徴
本書の特徴として、以下の3点が挙げられます。
- わかりやすい言葉での整理
もともとIT業界は専門用語が多い領域ですが、本書はビジネス書として幅広い読者層を想定していることもあり、やや専門的な単語が出てきても、できるだけ噛み砕いて解説がなされています。IT初心者の方でも、最低限の用語を押さえながら読み進められるよう配慮されています。 - 歴史的背景の振り返りと未来への展望
これまでのSIerがどのようにシステム開発を担ってきたのか、その歴史と課題をきちんと解説することで、未来へ向けた展望を描きやすくしています。「どうして今DXが注目され、AIやビッグデータが重要と言われているのか?」という疑問を、過去の流れから丁寧にひも解いてくれます。 - 技術だけでなくビジネス的視点も重視
システム開発とビジネスは切っても切れない関係にあります。本書はIT技術の変革についてだけでなく、ITサービスでビジネスを成長させるために何が必要か、ユーザー企業にとってどのような価値を提供できるかなど、ビジネス視点を含めた包括的な議論が展開されているのが特徴的です。 - 経営層・現場両方へのメッセージ
著者の梅田氏は、IT企業の経営層だけでなく、現場のエンジニアにもアドバイスを送っています。新しい働き方やスキルを身に付ける重要性はもちろん、キャリア形成の考え方にも踏み込んでいるため、「自分は文系で何から始めればいいんだろう?」という未経験の方にもヒントを与えてくれます。
2. おすすめポイント
ここからは「文系・未経験からのIT就活」を検討している方にとって、特に注目してほしい本書のおすすめポイントを4つ挙げます。
2.1 SIerの全体像を把握できる
まずはなんといってもSIerの全体像をつかめる点です。SIerというのは、単にプログラミングスキルを提供するだけでなく、顧客の課題をヒアリングし、システム導入の設計から運用保守までを行う、広範囲な支援役です。本書を読むことで、「SIerのビジネスモデルがどのように成り立ち、何を提供しているのか?」という基本的な疑問にしっかりと答えが得られます。就職活動の中で面接官から「SIerの役割を一言でいうと?」と聞かれたときなどにも、本書の内容を踏まえて自分の言葉で答えやすくなるでしょう。
2.2 これからのSIerに必要なスキルセットが具体的
これまでのSIerと比較して、「これからのSIer」が持つべきスキルセットが具体的に示されている点も魅力です。ITの技術動向はもちろん、クライアントのビジネスプロセスを理解するコンサルティング能力や、エンドユーザー目線での使いやすさを考慮するUI/UXの知識など、文系出身の方が「得意かもしれない」と感じる領域も多く含まれています。IT知識に加えて、「人の気持ちをくみ取りながら課題を解決するスキル」は文系にとっての強みになりうるため、これからのSIerにはより一層必要とされることがわかるでしょう。
2.3 歴史を踏まえた変革の必然性が理解できる
日本のSIerが長らく「ウォーターフォール型開発」や「大規模・長期間開発」を中心に発展してきた背景をふまえながら、近年ではアジャイル開発やDevOpsなど、より俊敏に変化に対応する手法が注目を集めています。そのような変革がなぜ起きているのか、歴史の流れを踏まえて理解できるのが本書の魅力です。新人として会社に入ると、どうしても「なぜこんなに古い仕組みを使うんだろう?」とか「どうして新しい開発手法を取り入れないんだろう?」といった疑問が湧くかもしれません。本書を読めば、それらの疑問が業界の歴史や組織の文化と深く結びついていることがわかり、現状への納得感と「どう変えていけるか」のヒントを得られます。
2.4 ビジネスと技術をつなぐ視点が鍛えられる
SIerの特性として、顧客のビジネス課題をヒアリングし、それをIT技術で解決するという流れが常にあります。ときには技術のプロフェッショナルと二人三脚で課題に当たり、ときには顧客企業の経営層や担当者と対話しながらシステム化の要件を定義する必要があります。本書では、IT技術の知識だけに偏るのではなく、顧客のビジネスをどのように理解し、どのようにソリューションを提案していくべきかが実践的に語られています。この「ビジネスと技術をつなぐ視点」は、文系・未経験の方がこれから育てていくうえで大いに参考になるはずです。
3. 文系・未経験からのIT就活への活かし方
本書を読むことで得られる知見や、実際の就活で使えるヒントを、文系・未経験の方がどのように活かせるか4つにまとめました。
3.1 SIerの仕事内容を具体的にイメージし、志望動機を明確化
文系・未経験でIT業界を目指す方の中には、「漠然とITに興味があるけど、具体的に何がしたいのかわからない」という悩みがあるかもしれません。本書を通じてSIerの仕事内容を知り、歴史的背景や今後の方向性を学ぶことで、自分が「SIerとしてどんなキャリアを歩みたいのか」が見えてきます。また、面接などでも「SIerとしての仕事を具体的に理解しており、自分の強みがどう活かせるか」という説得力あるアピールがしやすくなるでしょう。
3.2 コミュニケーション・調整力が武器になると再確認
SIerはプロジェクト単位で仕事が進むため、プロジェクトマネジメントやコミュニケーション・調整力が重要視されます。文系出身者は、大学時代にゼミやサークルなどで培った「人と協力する力」「文章による説明力」「プレゼンテーション能力」が強みになる場面が多いはずです。本書を読むと、技術だけでは解決できない課題に対して、人同士のコミュニケーションが欠かせないことがよくわかります。そうした「自分が文系だからこそ持っている武器」を改めて意識することで、就活での自己PRに具体性が増すでしょう。
3.3 未経験から学ぶべきIT基礎知識を整理
「いざIT就活を始めたいけど、何から手をつければいいのかわからない」という声は多いです。本書ではクラウドやAIなど、これからSIerに欠かせない技術要素が取り上げられており、その周辺知識をキャッチアップする入り口としても有効です。例えば「クラウドサービスってどんな種類があって、どうビジネスに活きるの?」といった初歩的な疑問も、本書をきっかけに興味を持ったらさらにググって学びを深めることができます。こうした基礎知識を就活前にある程度整理しておけば、エントリーシートや面接での受け答えにも自信がつくでしょう。
3.4 業界の課題と今後の展望を踏まえて質問を準備
就活の面接では、逆質問の時間などに「御社の今後の事業展開はどのように考えていますか?」といった質問をする機会があります。本書には、SIer業界が抱える課題や、これから変わらなければいけない理由が具体的に書かれているため、そこからヒントを得て企業研究や質問づくりができるでしょう。例えば「今後はアジャイル開発を取り入れていくべきと考えますが、御社ではどのような形で導入されているのでしょうか?」といった質問をすれば、「業界構造の変化を理解したうえで、積極的に学びたいと思っている学生」という好印象を与えやすくなります。
4. まとめ
文系・未経験からIT業界への就職を考える際、専門的な用語や技術に萎縮してしまいがちですが、SIerという立場は「企業のビジネス課題をITを使って解決する」という側面が強く、コミュニケーション能力やビジネス視点など、文系出身者が力を発揮しやすい領域でもあります。『これからのSIerの話をしよう』は、そんなSIerの仕事を歴史から未来へと俯瞰しながら、ビジネスと技術の橋渡しをする具体的な方法論を提示してくれます。
特に、これからのIT業界はクラウドサービスやDXの普及、AIの進歩などにより、スピード感と柔軟性が求められる時代です。SIerもまた、かつてのように「大規模案件で安定的にシステムを構築する」だけではなく、提案力やコンサルティング力を駆使して顧客企業の変革をサポートする役割へとシフトしつつあります。その変化は、文系出身の方が持つコミュニケーション力や情報整理力を活かす絶好のチャンスとも言えます。
本書を通じてSIerの過去・現在・未来を知ることで、単にプログラミングスキルを学ぶだけではないIT業界の面白さに気づくはずです。そして、その学びを就職活動の志望動機や自己PR、企業研究に活かすことで、他の就活生と差別化を図りながら、自分らしいキャリアの第一歩を踏み出せるでしょう。
もし「IT企業の中でも、なぜSIerを志望するのか?」と尋ねられた時、自分の強みとSIerの役割を結び付けて説得力ある回答ができれば、企業側からも「この人は文系・未経験だけど、しっかり勉強していて、業界の変化を理解している」と高く評価される可能性が高まります。ぜひ『これからのSIerの話をしよう』を一読し、IT業界デビューのための知識武装を始めてみてください。