【書評】改革・改善のための戦略デザイン 観光業DX

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本記事は、文系・未経験からIT業界への就職を目指す方に向けた観点でまとめた書評です。「改革・改善のための戦略デザイン 観光業DX」(廣川州伸 著、秀和システム、2022年12月01日頃)から得られる学びを、IT業界を志す際にどう活かせるのかを中心にご紹介します。

1. 書籍の概要

1.1 タイトル

『改革・改善のための戦略デザイン 観光業DX』

1.2 著者・出版社

  • 著者:廣川州伸(ひろかわ くにのぶ)
  • 出版社:秀和システム
  • 出版日:2022年12月1日頃

著者の廣川州伸氏は、観光学や地域活性化に関する研究・実務に携わりながら、デジタル技術やデータ活用といったDX分野の知見をもとに地域振興策を数多く提案しています。これまで観光地のブランディングやマーケティングに関する著作を手がけるなど、観光業界におけるデジタル活用推進の専門家として活躍している人物です。本書では、そうした経験と知識を踏まえ、観光産業でDX(デジタルトランスフォーメーション)をどのように戦略的に進め、改革や改善につなげていくかについて具体的かつ体系的に解説されています。

1.3 本書が取り扱う主な内容

本書の主なテーマは、「観光業界におけるDXの戦略と実行方法」です。コロナ禍の影響を大きく受けた観光産業は、デジタル技術を活用した新たな顧客体験の提供や効率的なオペレーションの構築が求められています。本書では、以下のようなポイントが網羅的に扱われています。

  1. 観光業におけるDXの重要性
    旅行者行動のデータ分析やオンラインでの集客・予約管理など、観光事業とデジタル技術の結びつきの必要性が強調されます。
  2. 戦略デザインの基礎
    DXを成功させるための「戦略デザイン」とは何かを解説し、取り組みのためのフレームワークや思考法などを紹介。
  3. 事例研究・ケーススタディ
    実際に地域観光や宿泊施設などでデジタル技術を導入して成果を上げている例が取り上げられ、具体的な施策や導入プロセスを学ぶことができます。
  4. 今後の展望と課題
    観光業界における人材不足や事業者間の連携不足など、DX推進の上での障壁と、それをどう乗り越えるかが提示されています。

1.4 本書の特徴

  • 観光業×DXに特化した実践的内容
    DXに関する本は数多く存在しますが、本書は観光業界という一つの産業にフォーカスしている点が特徴です。業界特有の課題とDXの結びつきを具体的に考えられます。
  • 理論と実例がバランスよく構成
    ただ理論を解説するだけでなく、具体的な導入事例や導入効果が示されるため、イメージしやすく実践しやすい内容になっています。
  • 戦略デザインへの丁寧な解説
    DXを成功させるためのプロセスや要点が「戦略デザイン」としてまとめられ、単なる技術導入にとどまらない、根本的な思考法や組織改革の方向性がわかりやすく示されます。
  • 社会情勢や最新技術にも言及
    コロナ禍の影響や、AI・データ分析などの技術トレンドがどのように観光業に活かせるかが論じられており、未来志向の展望も得られます。

2. おすすめポイント

2.1 観光業界の視点から学ぶ「顧客体験」重視のDX

DXの中心にあるのは、単なるデジタル技術の導入ではなく「顧客体験の向上」です。本書では、地域の特産品や宿泊施設などの実例を通じて、デジタルを活用した新しい顧客体験(UX)のデザインがどのように進められているかが詳しく解説されています。たとえば、オンラインでの予約管理やデータ分析を通じて、観光客一人ひとりに合わせたプランの提供などが可能になります。IT業界でも顧客やユーザーの視点に立った開発姿勢が重要ですから、「観光業だからこそフォーカスされる体験価値の高め方」は、ITサービス全般にも当てはめられる学びとなるでしょう。

2.2 戦略デザインのフレームワークがわかりやすい

本書の大きな特徴は、「戦略デザイン」という考え方を体系的に解説している点です。観光業であっても、IT業界であっても、DXを成功させるには「どのようなゴールを設定し、どの順番で施策を打ち、どのように成果を測定するか」といった流れが欠かせません。本書では、目指すべき方向性をビジョンとして描き出す方法から、実際に導入する際に用いるフレームワークやステップ、関係者間の調整方法などが丁寧に紹介されています。文系・未経験者でも理解しやすいように図解や具体的な事例が示されているので、「経営戦略」「事業開発」「マーケティング」などにあまり馴染みがない方にもおすすめです。

2.3 現場目線での事例紹介

DXに関する書籍は、大企業の大がかりなプロジェクト事例を中心に語られることが多いですが、本書では中小規模の企業や地域の事業者の取り組みも取り上げられています。そのため「観光業界の最先端のDX」だけでなく、「地方で具体的にどんな変革が行われているのか」や「小規模組織がどうリソースを確保してデジタル化を進めたのか」など、より身近で現実的な事例を学べるのが魅力です。IT業界への就職を目指す人にとっても、実際の導入現場の課題や工夫を知っておくことは大きなアドバンテージになります。特に文系出身者はコミュニケーション力や調整力を発揮するポジションに就きやすいため、現場の声を汲み取るコツやプロジェクトを円滑に進める方法などが学べるのは有益です。

2.4 社会全体の流れを捉える視点

コロナ禍や少子高齢化といった社会問題が深刻化する中で、観光業が大転換期を迎えているのは事実です。本書では、これらの社会情勢とDXの関連性が繰り返し言及されます。たとえば「人手不足は自動化やオンライン化でどう補えるか」「インバウンド需要の回復をデータ活用でどう取り込むか」など、実際の社会的課題を背景にしたDXの必要性が説かれています。この視点はIT業界においても同様に重要です。技術だけに目を奪われず、社会全体の動向や課題を理解することで、自分のスキルをどのように活かしていくかが明確になります。文系・未経験者がIT業界に挑戦する際にも、技術と社会の橋渡し役としての可能性を見出しやすくなるでしょう。

3. 文系・未経験からのIT就活への活かし方

3.1 DXの全体像を理解する教材として活用する

IT業界への就職を目指す際、まず大切なのは「DXとは何か」「どんな手順や考え方が必要なのか」を大まかに把握することです。本書は観光業界の事例が多く登場しますが、DX推進のプロセスや必要となる組織内外の調整、ビジョンの設定方法などはどの業種にも応用がききます。文系や未経験者の方が「デジタル化・DXの全体像」を学ぶ最初の教材としても最適です。本書で得られた知識をもとに、志望企業のDX事例やITプロジェクトの事例を調べてみると、より深い理解につながるはずです。

3.2 観光業界の事例を自分の志望理由につなげる

未経験でIT業界を目指す場合、何らかの強みをアピールする必要があります。文系の方であれば、たとえば観光や地域文化に興味があるという背景をもとに「観光業や地方創生に貢献するITサービスを作りたい」といった動機を語ることも一つの手です。本書を読むことで「観光DXの現状と課題」が理解できるので、その知識をもとに具体的な提案やビジョンを示すと説得力が増します。IT企業によっては観光領域のシステムを開発しているケースや、地域振興に力を入れているケースもあるため、本書で得た洞察は面接時のアピールポイントに活かせるでしょう。

3.3 プロジェクトマネジメントやコミュニケーション力の参考に

DX推進では、さまざまな利害関係者(経営陣、現場スタッフ、ベンダー企業、自治体など)が関わることが多いです。文系・未経験者の方は、最初からプログラミングやエンジニアとして活躍するのが難しい場合でも、コミュニケーションスキルや調整力を活かしてプロジェクト進行を支える立場になることが考えられます。本書には、観光施設や自治体などを巻き込んでDXを進める際の取り組み事例が紹介されているため、プロジェクトの進め方やステークホルダーとの連携方法において具体的なヒントが得られます。観光業界という特性上、協力体制づくりの難しさやアイデアの共有プロセスが詳しく述べられているので、「人を動かす」うえでのノウハウを学ぶ上でも大いに役立ちます。

3.4 ITサービスの価値を「体験」として捉える感覚を身につける

本書で繰り返し強調されるのは「顧客体験の向上」がDXの最大の目的だという視点です。これはIT業界でも全く同じで、デジタル技術を導入すること自体は手段であり、ユーザーにどんな価値や体験を提供するかが重要です。文系・未経験者こそ、技術そのものよりも「人がどんな体験を得るか」にフォーカスして会話を進めやすい強みがあります。本書を読むことで、観光業界では「旅行者にとっての価値をどう高めるか」を考える際にテクノロジーがどのように役立つのかがリアルにイメージできるでしょう。そして、この観点はアプリ開発やWebサービスのデザインなどにも通じます。ユーザー視点を大切にしながら、ITサービスの価値を捉える感覚を磨くきっかけとして本書を活用してみてください。

4. まとめ

「改革・改善のための戦略デザイン 観光業DX」は、観光産業がいかにデジタル技術を取り入れ、新たな体験や価値を生み出しているかを豊富な事例を交えて紹介している一冊です。コロナ禍による観光需要の変動や、人手不足・地域創生といった社会的課題の文脈の中で、どのように戦略を描き、現場に浸透させていくかを学べる点が大きな魅力となっています。

文系・未経験からIT業界を目指す方にとっては、「ITの技術的な側面」だけでなく「それを使って何を実現したいか」「社会課題をどう解決するか」という観点を身につけることが求められます。本書を読むことで、その“社会課題を解決する手段としてのIT”という視点や、プロジェクトを遂行するための戦略デザインの基本フロー、ステークホルダーとのコミュニケーションの重要性などを学べるでしょう。

IT業界は幅広く、観光関連システムや地域活性化に携わる企業も少なくありません。自分の興味関心と社会が抱える課題をつなげ、そこに技術をどう取り入れるかを考えられる人材は、たとえ文系・未経験であっても企業から高く評価される可能性があります。ぜひ本書を通じて、観光業界のDXのリアルと戦略的思考を学び、就職活動や将来のキャリアの糧にしてみてください。結果として、「ITの技術が何をどのように変えるのか」を具体的にイメージすることで、説得力のある志望動機やキャリアビジョンを描きやすくなるはずです。

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