本記事では、文系出身・IT未経験の方が「改革・改善のための戦略デザイン 病院DX」(中村恵二/野末睦、秀和システム、2021年11月30日刊)を通して、IT業界やDX(デジタルトランスフォーメーション)の考え方を学び、今後の就職活動やキャリア形成に活かすヒントをご紹介します。
病院を題材にした専門的な内容が中心に思われがちですが、ビジネスや組織マネジメント全般に応用できるエッセンスが詰まった一冊です。文系・未経験からITを目指す方でも理解しやすいポイントを意識しながら、詳しく解説していきます。
1. 書籍の概要
1.1 タイトル
『改革・改善のための戦略デザイン 病院DX』
タイトルから、「病院」という特定領域に限定された内容を想像されるかもしれませんが、本書の主題は「組織にDXを導入し、戦略的かつ継続的に改革・改善を進めるデザイン思考と実践方法」にあります。医療分野での事例を軸に展開しつつも、デジタル技術を活用した業務改善の枠組みやプロセス構築、組織文化の変革など、あらゆる業界で応用できる示唆が豊富です。
1.2 著者・出版社
- 著者:中村恵二(なかむら けいじ)/野末睦(のずえ むつき)
- 出版社:秀和システム
- 出版年月日:2021年11月30日
中村恵二氏と野末睦氏は、医療・ヘルスケア分野でのシステム構築やプロジェクト推進に実績のある専門家です。医療ITコンサルティング、病院経営支援などを手掛けており、現場のリアルな声を踏まえたうえでDXを促進する手法を解説しています。
1.3 本書が取り扱う主な内容
- 病院におけるデジタル化の現状と課題
電子カルテや看護記録システムなど、医療現場では既に多くのデジタル技術が導入されています。しかし現状は「部分的な導入に留まり、使いこなせていない」「部門間連携が十分でない」など、病院独自の課題があるのが実態です。本書では、こうした課題を具体的に洗い出し、改善ポイントを明示します。 - DX導入のための戦略デザイン
ただ技術を導入するだけでなく、「誰に対してどんな価値を提供するのか」というビジネス視点や「どのように組織文化を変えていくか」という人的側面を含めてDXを進める必要があります。本書では、ステークホルダー分析やプロジェクトマネジメントの手法を組み合わせながら、戦略デザインの道筋を提示しています。 - プロジェクト成功に向けた具体的ステップ
計画段階から運用・評価まで、DXプロジェクトを成功させるための実務フローが整理されています。特に病院での成功事例・失敗事例を交えながら、どうすれば既存の業務とIT化をうまく融合できるかを具体的に説明している点が特徴です。 - 現場から経営層まで巻き込む方法
デジタル技術の導入は現場スタッフのITスキルやモチベーションだけでなく、組織トップの理解と支援も欠かせません。本書では、経営層に対するプレゼンテーション手法、コスト計算やROI(投資対効果)の示し方、チームビルディングの考え方などが詳しく解説されています。
1.4 本書の特徴
- 病院の現場に根差したリアルな事例
医療現場をテーマにしたコンサルティング事例や、患者・医療スタッフの視点を踏まえた課題設定など、具体性が非常に高いです。一般的なDXの解説書では語りづらい「医療現場の制約」や「規制」などを交えながら実践的なノウハウが得られます。 - デザイン思考と経営戦略の融合
改革・改善のために単に技術要素を導入するのではなく、「問題の本質は何か」「だれのために改善するのか」といったデザイン思考のステップを踏みつつ、経営視点で戦略的にアプローチする手法が整理されています。これは業界問わず参考になるアプローチです。 - プロジェクトマネジメントを体系的に解説
単発のシステム導入で終わらず、「定着」して「現場に根付く」ための体制づくりがどのように行われているかが示されています。IT案件にありがちな「入れたら終わり」という失敗をどう防ぎ、継続的な改善サイクルを回せるかが重要なテーマとして扱われています。 - 初心者にもわかりやすいフレームワーク紹介
難解な専門用語ばかりではなく、各種フレームワークや分析手法がイラストや図表で整理されています。初めて組織DXに触れる読者でも理解しやすく、かつ現場で応用可能な設計になっています。
2. おすすめポイント
2.1 現場目線と経営視点の「両立」がわかる
DXやIT導入では、「現場の問題に合わせるべき」「いや、経営戦略から入るべき」といった意見が対立しがちです。本書では、両者が互いに補完しあう関係性として整理されています。「現場のニーズを見極めるデザイン思考」と「投資対効果を重視する経営視点」をいかに統合していくかが、具体的なエピソードを通して示されるので、バランスよく学べる点が魅力です。
2.2 プロジェクトマネジメントの実務を体感できる
計画策定から導入、運用、評価・改善までのプロセスが、一連のストーリーとして紹介されています。たとえばプロジェクト開始前のキーマン(トップや現場リーダーなど)へのヒアリング、導入後の障害対応、成果の振り返りなど、実務レベルで遭遇し得る問題や課題が具体的に書かれています。IT未経験の方が「プロジェクトとは何をする場なのか」をイメージしやすい構成になっているのは大きなメリットです。
2.3 「デザイン思考」の価値を体感できる
「デザイン思考」とは、ユーザーや現場が求める価値にフォーカスし、試行錯誤とフィードバックを繰り返しながら最適解を導くアプローチです。本書では医療スタッフや患者の声を拾い上げるプロセス、そこからアイデアを具体化し評価する手段が示されています。単なる理論解説に終わらず、「こうすれば当事者のニーズを吸い上げられる」という実例が豊富なので、未経験者にも理解しやすいでしょう。
2.4 業界を超えて応用できる洞察
病院という特殊な環境下でもDXが可能であることを示す一方、そのために必要なスキルやマインドセット、組織体制づくりのポイントは普遍的です。どの業界でも「現場と経営の温度差」「既存システムとの折り合い」「スタッフ教育」といった共通の課題があります。本書を通じて得られるノウハウは、文系・未経験からIT業界へ飛び込む方にも汎用性が高く、就活時の面接トークや自己学習にも活かせます。
3. 文系・未経験からのIT就活への活かし方
3.1 「ユーザー視点」を武器にする
文系出身の方は「人の気持ちを汲み取る力」「コミュニケーション力」が強みになりやすいです。本書で紹介される医療スタッフや患者の意見を踏まえたデザイン思考は、まさに「人」を中心に据えた考え方。そのプロセスを学んでおくと、IT業界で求められるユーザビリティやサービス体験の改善に関する視点が自然と身につきます。IT製品を使うユーザーの気持ちに寄り添い、改善アイデアを導く力は、文系背景ならではのアピールポイントとなるでしょう。
3.2 プロジェクトマネジメントの基礎を理解する
DXは単なる技術導入に留まらず、プロジェクトとして進められることが大半です。文系・未経験者が意外と苦戦しやすいのが、プロジェクトの進め方やスケジュール管理、リスク管理などのマネジメントスキル。
本書を読むと、医療機関という厳しい条件下(安全性の確保、24時間体制、部門間の連携など)でのプロジェクト進行例が示されており、より複雑な環境でのマネジメントポイントを学ぶことができます。一般的な企業プロジェクトよりも制約やリスクが多い分、学びがいは十分。就活時に「DXプロジェクトマネジメントの事例を学んだ」という具体的なストーリーを語れば、説得力が増すでしょう。
3.3 社内・社外の利害調整をイメージできる
DXを推進するには、経営層や現場スタッフ、外部ベンダーなど多種多様なステークホルダーを巻き込まねばなりません。これは病院DXに限らず、あらゆるITプロジェクトでも同様です。本書では、院内外での利害調整や合意形成のやり方が具体的に紹介されています。
文系出身であっても「調整力」「交渉力」が高い人材はIT業界で重宝されます。技術に詳しくなくても、異なる立場の人同士の橋渡しをするスキルは大きな武器です。本書を通じて、どんな場面でどんな調整が必要となるかを学んでおけば、実際の職場でもすぐに活かせるはずです。
3.4 継続的な学習・改善サイクルの重要性を理解する
DXは一度システムを導入して終わりではありません。利用者からのフィードバックを得て改善を重ね、組織全体で運用を最適化していくことが求められます。本書でたびたび取り上げられる「改善サイクル」や「定期的な振り返り」は、IT業界のプロジェクトでも必須の考え方です。
文系・未経験の方は特に、「変化を恐れずにトライ&エラーを続けられるかどうか」が重要なカギになります。本書を通じて、実際に病院というリスクの大きい現場でも継続的な改善が可能であることを知れば、自分自身も積極的に学び・行動を繰り返す姿勢が育ちます。この姿勢はどのIT企業でも高く評価されます。
4. まとめ
「改革・改善のための戦略デザイン 病院DX」は、医療現場にフォーカスしたDXの解説書ながら、実際にはあらゆる組織改革・業務改善に応用可能な示唆が満載の一冊です。文系・未経験の方がIT業界へ就職・転職する際、「DXって具体的にはどう進むの?」「プロジェクトマネジメントはどのように行われる?」といった疑問を解消するには、専門用語だけでなく現場のリアルな事例に触れることが効果的です。
本書では、病院という組織の特徴を踏まえつつも、デザイン思考や経営戦略論、プロジェクトマネジメントの基礎などが統合的に解説されています。特に文系出身で「人に寄り添ったアプローチ」を得意とする方には、多くのヒントが得られるでしょう。IT未経験であっても、ユーザー目線で問題を見つけ出し、それをテクノロジーと結びつけて解決策を提案できる力は大きな強みです。
実際の就活では、本書で学んだ「ステークホルダーを巻き込む調整力」「継続的な学習と改善の重要性」「デザイン思考に基づく問題解決の流れ」を自分なりの言葉でアピールしてみてください。面接や自己PRの場面でも、「具体的にどんな本を読んで学んだか」を述べると説得力が増しますし、知識の深さを印象づけることができます。
DXやIT化は、どの業界でも今後ますます需要が高まる領域です。「専門知識がないから」と尻込みするのではなく、まずはこのような書籍を手に取って実務のイメージを膨らませるところから始めてみてはいかがでしょうか。文系・未経験であってもIT業界で活躍できるチャンスは十分にあります。自分の強みを活かしながら、いざというときに動ける知識とスキルを身につけるきっかけとして、本書をぜひ活用してみてください。