【書評】当たり前の経営 常識を覆したSCSKのマネジメント

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本記事は、文系・未経験からIT業界への就職を目指す方々に向けて、SCSKのマネジメント手法を題材にした書籍『当たり前の経営 常識を覆したSCSKのマネジメント』(野田稔 著、ダイヤモンド社、2014年12月)を紹介し、その学びをどのように就活やキャリア形成に活かせるかを解説するものです。特に「文系でIT業界が未知の世界」という方に向けて、SCSKという企業の事例を通じて、IT業界の働き方やマネジメントに触れ、就活の視点を深めるきっかけとなれば幸いです。

1. 書籍の概要

1.1 タイトル

『当たり前の経営 常識を覆したSCSKのマネジメント』

1.2 著者・出版社

  • 著者: 野田 稔
  • 出版社: ダイヤモンド社
  • 出版年月: 2014年12月

著者の野田稔氏は、人事・経営コンサルティングの領域で経験を積み、テレビやラジオ、大学の客員教授としても多方面で活躍している人物です。企業が持つ人材の力を最大限に引き出すための仕組みづくりや、働く個人のキャリア・意識改革などをテーマに発信しており、本書もその領域に即した内容となっています。

1.3 本書が取り扱う主な内容

本書は、IT業界大手のSCSKがいかにして「当たり前の経営」を実践し、業績と社員の働きがいを同時に向上させたのかを解き明かすケーススタディです。「当たり前の経営」とは一見すると地味な響きかもしれませんが、その背後には大胆な働き方改革や、社員に対する信頼を前提としたマネジメントがありました。具体的には、以下のようなポイントが取り上げられています。

  • 社員が安心して働ける環境の整備: 残業削減や健康経営、休暇取得の推進など
  • 経営理念の徹底浸透: 一人ひとりの行動指針を整え、共通の価値観を築く
  • リーダーシップの在り方: 管理というよりは“伴走”する形でのリーダー像
  • 顧客への提供価値の最大化: 技術力とホスピタリティの両立で信頼を獲得

企業の不祥事などが世間を騒がす中で、「コンプライアンス」「働き方改革」「エンゲージメント」などが叫ばれるようになりました。しかし、SCSKはそのような流れに先んじて、社員の幸せを軸にした組織マネジメントを進めていたのです。本書は、その具体策や効果、そして実践の背景にある考え方を示してくれます。

1.4 本書の特徴

  1. 実例に基づく説得力
    SCSKという実在する企業の事例を深く掘り下げているため、ただの理論的主張ではなく、「現場でこう動いたら、こう変わった」という生きた情報が盛り込まれています。
  2. 働き方改革の先行事例
    社員の健康経営や残業削減などにいち早く着手し、その成果が出ている具体的ストーリーが描かれています。働き方改革が一般的なテーマになる前から実施していた先進企業としての歩みが学べます。
  3. 社員視点と経営者視点の両面を扱う
    企業側の視点(経営・人事制度の構築)だけでなく、社員の意識や行動変化にもスポットを当てているため、トップダウンとボトムアップの両面から読むことができます。
  4. 「当たり前」という言葉に込められた真意
    本書で言う「当たり前の経営」とは、例えば「社員を大事にする」「働きやすい環境を整える」といった、理想的だけれど簡単には実行できないことを本当にやりきる姿勢を意味しています。その姿勢こそがSCSKの強さの源泉であり、その真意が書かれています。

2. おすすめポイント

2.1 働き方改革の先駆的事例を理解できる

今日では、多くの企業が「ワークライフバランスの推進」「ダイバーシティの促進」「健康経営」などに取り組み始めています。しかし、本書が扱うSCSKの事例は、2010年代前半から先駆的に実施してきたものであり、いわば働き方改革の“先行モデル”といえます。

  • 具体的には残業の大幅削減有給休暇取得の徹底など、当時としては挑戦的な取り組みを実現してきました。
  • 結果として業績が上がり、社員満足度も大幅に向上したという点は注目に値します。

就活生としては、「IT業界=残業が多い・激務」というイメージを持つ方も多いでしょう。しかし、本書を読むことで、IT業界でも改革により健全な働き方を実現している企業があると分かります。それは、企業選びの軸を見直すうえで重要な視点になるはずです。

2.2 経営理念と制度設計の一致がもたらす効果を体感できる

SCSKは「社員を大切にする」という経営方針を明確に打ち出し、それを人事制度や組織風土づくりで実践してきました。

  • 例えば給与制度、研修制度、休暇制度などが相互にリンクして、社員のキャリア形成と会社の業績向上を両立させるように設計されています。
  • 企業理念が「額縁の飾り」に終わるのではなく、実際の仕組みづくりとセットになっている点が非常に特徴的です。

就活生の視点で見ても、「経営理念」と「実際の働き方・人事制度」には乖離がある企業も多い中、SCSKは理想を形にしているという事例として参考になります。制度の裏側にある意図や意義を本書で知ることで、「企業理念をどう判断するか」という就職活動のポイントが見えてきます。

2.3 社員目線のエピソードが豊富で共感しやすい

本書は経営者や人事担当の視点だけでなく、社員の実体験やエピソードが多数紹介されています。

  • 残業が減り、自分のキャリアやプライベートに余裕が生まれたという声
  • 新卒や若手社員が「働きがい」をどのように捉えているか
  • 管理職がリーダーシップをどう変化させたか

こうしたエピソードは、これから就職する文系・未経験の方にとって、自分の将来像をイメージしやすくします。「IT企業に勤める」というイメージを、実際の社員の言葉を通して実感できるのは、本書の大きな強みです。

2.4 「当たり前」を徹底する難しさと意義を学べる

本書のタイトルにある「当たり前の経営」とは、「社員が働きやすい環境を整える」「お客様に喜んでもらう仕事をする」といった、言葉だけなら誰でも言えることを愚直なまでに継続して実行することを指します。

  • 「当たり前」を実現するにはコストや社内調整が必要であり、抵抗勢力に対処しなければなりません。
  • それでも会社がブレずに進めることで、最終的に競合との差別化や社員の結束、企業価値の向上につながるのです。

文系・未経験からIT業界を目指す方が本書を読むと、「当たり前を本当にやる」という経営や組織の深みを学ぶことができます。これは単にIT技術を学ぶだけでは得られない、大きな視野を提供してくれるでしょう。

3. 文系・未経験からのIT就活への活かし方

3.1 「企業文化」や「組織風土」を重視した企業選びの視点を得る

IT業界に興味を持ったばかりだと、どうしても「技術力が高い企業」「有名なサービスや製品を持つ企業」に注目しがちです。しかし、本書が示すように「社員を大切にする文化」や「組織風土」が長期的には働きやすさやキャリア形成に大きく影響します。

  • 就職活動では、企業の経営理念や方針、人事制度をしっかりチェックする
  • 企業のHPに掲載されている「社風」や「人事理念」を鵜呑みにせず、実際にOB/OG訪問や面談でどのように運用されているか確認する

こういった視点が、文系や未経験の就活生にも非常に重要です。

3.2 「経営者の発言」と「現場の声」の両面をリサーチする

文系・未経験の方は、IT技術のレベルを細かく評価するのは難しいかもしれません。一方で、経営者のトップメッセージや社員インタビュー、SNSでの評判などを丁寧に読み解くことで、その企業の本質や強みを把握できます。

  • 本書では経営トップの方針と社員の声がバランス良く紹介されており、その両方を見る大切さがわかります。
  • 就活でも、企業のプレスリリースや社長インタビューと、社員ブログや口コミサイトなどを併せて確認することで、企業への理解が深まります。

3.3 「IT業界=激務」のステレオタイプを見直す

文系の方がIT業界に抱きがちなイメージのひとつに、「休みも少なく残業続き」というものがあります。しかし、本書で紹介されているSCSKのように、むしろ働きやすさの改革を先行して進めている企業も存在します。

  • 激務かどうかは企業やプロジェクト次第で、必ずしもIT業界全体が激務というわけではない
  • 先進的な取り組みを行う企業は、新たなサービスやビジネスモデルを生み出すために、労働環境への投資も積極的

こうした実例を知っておくと、企業選びの幅や視点が広がります。「業界全体のイメージ」ではなく、「個々の企業の取り組み」に目を向けましょう。

3.4 自分の「強み」や「価値観」を見直すきっかけにする

文系や未経験の方がIT業界へ飛び込む際、「自分にどんな価値を提供できるのだろう」と悩むことも多いでしょう。

  • 本書が示すように、SCSKでは「社員を大切にする」という前提があり、社員一人ひとりが自分の強みやキャリアを主体的に考える風土があります。
  • そうした企業に入って活躍するためには、自分の価値観や得意分野をしっかり言語化することが大切。

例えば「コミュニケーション力」「ホスピタリティ」「調整力」「柔軟な発想力」など、文系出身者ならではの強みをアピールできるようにしておきたいところです。本書に触発されて、自分の強みや今後のキャリアを考える時間を取ってみると良いでしょう。

4. SCSKの選考への活かし方

本書でのSCSKの事例を活かし、SCSKの選考に臨む際に押さえておきたいポイントを4つ挙げます。SCSKに限らず、他のIT企業の選考にも応用できる考え方です。

4.1 「共通の価値観」を意識した志望動機

SCSKは「社員が幸せになる会社を目指す」という方針を掲げてきました。これは会社としての大きなアイデンティティです。

  • 志望動機を語る際には、自分自身がどういう働き方を望んでいるか、それがなぜSCSKの理念とマッチするのかを明確にする
  • 単に「残業が少ないからいい」ではなく、「自分の能力を最大限発揮するためには、社員を大切にする文化が合っている」というように、企業理念と自分の価値観を重ね合わせることが大切

4.2 社員の声・具体的エピソードに基づいた質問

本書には社員の具体的なエピソードやインタビューが紹介されています。これらをもとに面接や説明会で質問をすることで、面接官に対して「SCSKに興味を持ち、学びを深めている」という印象を与えられます。

  • 例えば「新人時代のエピソード」を話している社員の言葉を引用して、「自分もこういう風に成長したいと思いましたが、実際に今はどんな取り組みを強化されていますか?」など、具体的かつ発展的な質問をする。
  • 事実やエピソードを踏まえた質問は、相手から詳しい情報を引き出し、さらに理解を深めることができます。

4.3 「自分が貢献できること」を具体化する

SCSKはITソリューション企業として幅広い事業領域を抱えており、求める人材は技術職だけではありません。文系未経験でも、企画職・営業職・コンサルティング職などで活躍できる可能性があります。

  • 「IT未経験だけれども、顧客企業とのコミュニケーションや要望を引き出すスキルで貢献できる」
  • 「文系の強みである言語化能力や情報整理能力をプロジェクトマネジメントに活かせる」

こうした形で具体的に自分がどう活躍できるかを話せるよう、自己分析を重ねておくことが重要です。

4.4 「働き方改革」や「健康経営」をどう捉えているかを明確に

SCSKのマネジメントの大きな特徴のひとつが「働き方改革」や「健康経営」です。その意義をどのように理解し、自分のキャリアと結びつけられるかも面接官から見られるポイントになるかもしれません。

  • 「健康であることが良いパフォーマンスに繋がる」という考え方に共感する
  • 「適切な労働環境が整っていることで、より質の高い仕事ができる」というロジックを自分の言葉で説明できる

面接時に「単に福利厚生が充実しているから魅力的」という以上の視点で、企業と個人の成長を両立させる仕組みとしての働き方改革を語れると、一歩踏み込んだ理解をアピールできるでしょう。


5. まとめ

『当たり前の経営 常識を覆したSCSKのマネジメント』は、SCSKが実施してきた働き方改革や社員中心のマネジメント施策を事例として紹介するだけでなく、それらを支える理念と現場のリアルな声が丁寧に描かれています。IT企業=激務というステレオタイプを覆し、「社員が安心して働き、その結果として顧客満足度や業績を向上させる」という理想を地道に実現したストーリーは、多くの学びを与えてくれるでしょう。

特に文系・未経験からIT業界へ飛び込もうとする方にとっては、「IT技術に詳しいかどうか」だけでなく、「企業のマネジメントや組織文化」がキャリアの充実に大きく影響を与えることを再認識させてくれます。就職活動では技術的要素に目が行きがちですが、自分の強みや価値観をしっかり見極めつつ、企業が大切にする理念や制度と重なる部分を探していくという観点が重要です。

SCSKの選考においても、本書で学んだ内容を踏まえて「社員を大切にする姿勢」「顧客への誠実な対応」「職場環境の整備」などに対して自分がどう共感し、どんな行動で貢献できるかを具体的に語ることができれば、大きなアピールポイントになるでしょう。ひいては、SCSKだけでなく、他のIT企業や異業種においても、企業選びや自己PRの組み立て方にも役立つはずです。

「当たり前の経営」がなかなか実行されない現代だからこそ、本書の内容を知ることで、企業を見る目と自分のキャリアへの展望を広げてみてください。自分に合った企業を見つける手助けになると同時に、入社後も長く働き続けるためのヒントを得られる一冊となるでしょう。

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