ERPとは?

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近年、あらゆる企業のビジネス活動においてITシステムの重要性が増しています。特に、大企業から中堅・中小企業まで導入が広がっているシステムの一つが**ERP(Enterprise Resource Planning)**です。

ERPは企業のあらゆる資源を一元管理・最適化する仕組みを指しますが、文系・未経験の方には少し難しく感じられるかもしれません。

そこで本記事では、「ERPって何?」「どんな企業で使われているの?」「IT業界に就職するうえでどんな知識が必要?」など、初学者の疑問を解決することを目的に、分かりやすく解説していきます。

ERPとは?

まず、ERPは「Enterprise Resource Planning」の略で、日本語では「企業資源計画」と訳されます。企業におけるヒト・モノ・カネ・情報といった様々な経営資源を統合的に管理し、業務プロセスを最適化するための概念、あるいはそれを実現するシステムのことを指します。

企業がビジネスを行ううえでは、販売、購買、生産、在庫管理、会計、人事、給与など、実に多岐にわたる業務が存在します。それらをバラバラのシステムで運用していると、情報の連携に手間がかかったり、データの重複や入力ミスが起きたりと、非効率な状況が生まれやすくなります。そこで、ERPという考え方を導入し、各部門の業務を横断的に連携させ、単一のシステムでデータを共有し、会社全体の生産性や経営効率を高めようというのが目的です。

ERPシステムの代表的な製品としては、「SAP ERP(SAP社)」「Oracle ERP(Oracle社)」「Microsoft Dynamics 365(Microsoft社)」などがよく知られています。いずれも世界的にシェアが高く、多くの大手企業やグローバル企業が導入しています。一方、日本企業向けに特化した国産ERPパッケージも数多く存在しており、業種・業態に合わせてさまざまな導入形態が選ばれます。

ERPの歴史:MRPからの発展

ERPという言葉が広まる以前、企業では「MRP(Material Requirements Planning:資材所要量計画)」という仕組みが主流でした。MRPは製造業における生産管理・在庫管理に焦点をあてたシステムで、必要な部品や原材料の数を計算し、いつまでにどれだけ手配すればよいかを管理するものでした。

その後、MRPに生産スケジューリングだけでなく会計や販売管理、人事管理などの機能を追加し、企業の経営資源全体を管理できるようにした概念が「MRPⅡ(Manufacturing Resource Planning:製造資源計画)」です。そして、製造業以外のあらゆる業種・業態にも適用可能な範囲へと拡張したのがERPです。つまり、ERPは製造管理から始まり、今では企業全体の管理を担うシステムへと進化してきたと言えます。

ERPの主要機能

ERPシステムには企業活動に必要なさまざまな機能が含まれています。以下では代表的な機能を簡単にご紹介します。

  1. 会計管理(Financial Management)
    企業の財務諸表や支払・請求といった経理会計、管理会計などを包括的に管理する機能です。売上や支出がリアルタイムに把握できるため、正確な財務状況の分析が可能になります。
  2. 販売管理(Sales Management)
    見積もり、受注、請求といった販売プロセスを一元管理する機能です。顧客情報と紐づけてデータを蓄積することで、営業活動を効率的に進められます。
  3. 購買管理(Purchasing Management)
    仕入れ先との取引や購買発注、検収などを管理します。購入コストの最適化や適正在庫の維持に役立ちます。
  4. 在庫管理・生産管理(Inventory & Production Management)
    製造業では特に重要となる機能で、在庫量をリアルタイムに把握して過不足を防ぐとともに、生産計画を最適化します。
  5. 人事管理・給与管理(Human Capital Management)
    社員情報の登録や人事考課、給与計算など、人事労務に関する機能です。勤怠管理などのシステムと連動させることで、労務リスクの軽減や従業員データの一元化が可能になります。
  6. 顧客管理(CRM連携)
    ERPにはCRM(Customer Relationship Management)機能を備える製品もあります。顧客とのやり取りを管理し、マーケティングやサービス改善に役立てることが可能です。

これらの機能がひとつのシステム上に連携していることで、データの入力の重複を防ぎ、タイムリーな情報共有を実現します。部門ごとにシステムが分かれていると発生しがちな「担当者や部門同士のデータ食い違い」や「レポート作成の手間」を大きく減らせる点がERPの強みです。

ERP導入のメリット

1. 業務効率化

ERPを導入すると、単一のデータベースに全社の情報が集約されるため、データの整合性が高まります。入力作業の重複を減らし、レポート出力も容易になることで、情報共有が格段にスムーズになります。

2. コスト削減

業務効率が上がると、人的リソースや時間を節約できるため、結果的にコスト削減にもつながります。特に在庫管理や購買管理が最適化されることで、不要な在庫を減らし、原価低減を実現できます。

3. 意思決定の迅速化

経営陣が必要な情報をリアルタイムに入手できるのもERPの大きな利点です。販売状況や生産状況、財務状態など、あらゆるデータを横断的に把握することで、迅速かつ正確な意思決定を下しやすくなります。

4. グローバル化・多拠点展開への対応

企業が海外拠点を持つ場合でも、ERPを導入していると全拠点の業務データを中央で管理できます。通貨や言語、法規制などにも対応するERP製品を選べば、グローバル展開もスムーズになります。

ERP導入のデメリット・課題

一方で、ERPを導入する際にはいくつか課題やデメリットもあります。代表的なものを挙げてみましょう。

  1. 導入コストの高さ
    ERPシステムは機能が豊富な分、導入時にはライセンス費用、コンサルティング費用、カスタマイズ費用などがかさみがちです。また、システムを動かすためのサーバーやネットワークなどITインフラを整えるコストも必要になります。
  2. 導入期間が長期化しやすい
    企業ごとに業務フローや運用ルールが異なるため、それらに合わせてシステムを調整しなければなりません。特に大規模プロジェクトでは要件定義やテストに多くの時間がかかり、想定以上に長期化することもあります。
  3. 現場の抵抗感・定着化の問題
    新しいシステム導入に対して現場が抵抗を示すケースも少なくありません。操作が複雑に感じられたり、既存の業務プロセスを大きく変更しなければならない場合は、現場社員への教育や、運用ルールの確立が大きな課題となります。
  4. カスタマイズのジレンマ
    標準機能をそのまま使えば導入がスムーズになる反面、社内の業務フローにどうしても合わせたい部分があるとカスタマイズが増え、コストや期間の面で負担が増してしまいます。企業としては「標準機能でどこまで対応できるか?」の見極めが重要です。

ERPに関わる仕事・職種

文系・未経験の方がIT業界でERPに関わるとなると、具体的にどのような職種があるのでしょうか。大まかにいくつかご紹介します。

  1. ERPコンサルタント
    企業の業務分析や導入要件の整理、システムの選定などを行う立場です。IT知識だけでなく、会計や人事、サプライチェーン管理などビジネス面の知識も求められますが、文系出身でコンサルタントを目指す人も多くいます。最初はアシスタント業務から入り、業務フロー図を作成したり、要件定義のミーティングをサポートしながら、徐々にスキルを身につけるケースが多いです。
  2. ERPエンジニア(システム開発者)
    ERPパッケージの導入にあたっては、アドオン開発や機能拡張が必要になる場合があります。そうしたカスタマイズをプログラミング言語(たとえばABAP/SAPであればABAP言語、OracleであればPL/SQL、Microsoft系であればC#など)で行うエンジニアが必要です。文系であっても、未経験からプログラミングを学び、この道に進む人は少なくありません。
  3. プロジェクトマネージャー/PMO
    ERP導入プロジェクトを円滑に進めるために、進捗管理やリスク管理、スケジュール調整、チームメンバー間のコミュニケーションなどを担う役割です。ITの基礎知識と共に、コミュニケーション能力や調整力、リーダーシップなどが求められます。文系出身で管理能力に長けた人が活躍しやすいポジションでもあります。

文系出身でERPに関わるキャリアパス

文系・未経験でもERPに関わるキャリアを築くことは十分可能です。以下のような道筋が一般的です。

  1. IT企業に就職し、研修・OJTを通じて業務知識を習得
    文系や未経験者を積極的に採用し、基礎的なITスキルやビジネス知識を身につける研修を行う企業も増えています。最初はテストや簡単な資料作成、マニュアル整備などの補佐的業務から入り、徐々に難易度の高い業務を担当していきます。
  2. ERPプロジェクトに携わる機会を得る
    入社後のアサイン次第ですが、ERP導入や運用保守プロジェクトなどに関わることで、実務を通じて知識を深めることができます。上司や先輩のサポートを受けながら、業務フローを理解したり、要件定義の手法や基本設計の流れを学んだりします。
  3. 業務領域・コンサル領域の専門知識を高める
    ERPコンサルタントを目指す場合は、会計・人事・購買といった特定の業務領域について体系的に学ぶ必要があります。実際に簿記の資格を取得する、社会保険労務士の勉強をする、サプライチェーンの基本を学ぶなど、業務知識を身につけていくことで、コンサルティングに必要な素養を蓄えられます。
  4. 資格取得やセミナー受講で知識の幅を広げる
    ERPベンダー各社が提供する認定資格(例:SAP認定コンサルタント資格など)や、プログラミング関連資格、プロジェクトマネジメント資格(PMPなど)を取得することで市場価値を上げることもできます。文系出身の方でも、体系立てて勉強を進めれば十分に取得可能な資格は多いです。

ERPシステムの導入事例

ここでは、ERPが実際にどのように導入されているか、一般的な例をいくつか挙げます。

  • 製造業A社:在庫削減と生産効率向上
    ERP導入前は各工場や部門で管理方法がバラバラだったため、在庫が過剰になっていたり、納期遅延が頻発していました。ERPの在庫管理機能を導入・統合したことで、在庫状況をリアルタイム把握し、生産計画を最適化。結果としてコスト削減と納期遵守率の向上に成功しました。
  • 小売業B社:売上データの可視化と迅速な経営判断
    全国にチェーン展開している小売業B社では店舗ごとに販売情報が分断されており、経営陣が正確な売上分析を行うのに時間がかかっていました。そこで、各店舗の販売データを集約するERPを導入。POSシステムからのデータを一元管理することで、在庫補充の最適化や商品トレンド分析、経営判断のスピードアップにつながりました。
  • サービス業C社:人材管理と経理処理の効率化
    サービス業C社は人員が数千人規模おり、複数の事業部門で給与計算や勤務形態が異なっていました。ERPの人事管理・会計管理機能を活用し、従業員データと給与計算、経理処理を統合的に管理することで、人事部と経理部のデータ整合性や勤怠管理の手間を大幅に削減。ペーパーレス化の推進にも成功しました。

まとめ

文系・未経験であっても、IT業界におけるERPの導入プロジェクトやコンサルティング業務にチャレンジする道は開かれています。企業の基幹システムとしてERPはこれからも根強く需要があり、業界知識とIT知識をかけ合わせて専門性を高めれば、キャリアアップの可能性も大きいです。

ERPは単にシステムを導入するだけではなく、企業全体の業務プロセスを俯瞰して改善していく考え方が重要となります。文系出身の方は、論理的な思考力やコミュニケーション能力を活かしつつ、ビジネスの視点からITを捉える強みがあります。最初は技術的な専門用語に戸惑うかもしれませんが、研修や独学、プロジェクトの現場経験を通じて着実にスキルを身につけることができます。

これからIT業界へ飛び込む方にとって、ERPの基礎知識を押さえておくことは、企業のDXや基幹システム刷新プロジェクトなどに携わる上で大いに役立ちます。ぜひ本記事をきっかけに、ERPというシステム・概念に興味を持ち、将来のキャリアを広げる一歩を踏み出してみてください。

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