就職活動の定番質問のひとつに「学生時代に力を入れたこと(通称ガクチカ)」があります。面接やエントリーシートで必ずと言っていいほど聞かれるこの問いに対し、「何を、どのように伝えたらよいのか分からない」「正直、特に自慢できることなんてない」という悩みを持つ方は多いのではないでしょうか。
特に文系・未経験でこれからIT業界を目指す方にとっては、「ITに直接関係する実績がない」「文系の学部で研究成果や論文の実績があるわけでもない」と、ガクチカに書けるようなネタがないと感じることもあるかもしれません。しかし、必ずしも“ITに直結する経験”をしていなくても大丈夫です。そもそも企業側がガクチカを聞くのは「何を経験してきたか」よりも「どのように考え、行動し、成長したのか」を知りたいからです。
本記事では、ガクチカを書く上での考え方や進め方、文章の作り方について解説します。とくに、文系・未経験からIT業界に挑戦しようとしている方が、自身の学生生活での経験や努力をどのようにアピールにつなげられるかを中心に、詳しくお伝えしていきます。
1. 企業が「学生時代に力を入れたこと」を聞く理由
まず最初に、企業がガクチカを聞く背景にはどのような意図があるのでしょうか。新卒採用の場合、まだ就業経験のない学生を選考するにあたり、企業は主に次のポイントを知りたいと考えています。
- 主体性や行動力
– 就職後、どのように行動し、自ら学び、成長していってくれるか。
– 自分で課題を設定し、解決に向けて努力できる力があるか。 - 人間性や価値観、考え方
– 周囲との関わり方、コミュニケーション方法、チームワークの在り方。
– 何を大切にしているか、どんなモチベーションで行動するか。 - 困難や課題にどう向き合ってきたか
– トラブルが発生したとき、どのように対応したか。
– 問題を解決するために工夫を凝らし、継続して努力できるのか。
これらは、文系・理系やIT経験の有無に関わらず、新卒入社の学生には等しく求められる資質です。たとえ直接ITの知識や経験がなくとも、上記の要素がしっかり伝われば、企業に「この人は吸収力が高そうだ」「チャレンジ精神がある」「チームで仕事をしてくれそうだ」と思ってもらうことができます。
2. ガクチカのネタを探すための自己分析
ガクチカを書く上でつまずきやすいポイントとして、「特に頑張ったといえるエピソードがない」「勉強も部活も中途半端だった」という声をよく聞きます。しかし、学生生活を振り返ってみると意外といろいろなことをしているものです。部活やアルバイト、サークル活動、ゼミ、趣味の活動、ボランティアなど何でも構いません。小さなことでも、自分なりに一生懸命取り組んだ経験を思い出してみましょう。
2-1. ポイントは「取り組む過程」と「得た学び」
ガクチカでは“何をやったか”よりも“そこからどう学び、成長したか”が重要です。たとえばアルバイト一つとっても、単に「接客をした」のではなく、「どうすればお客様により満足してもらえるかを考え、マニュアルにない工夫をした」など、主体的に行動した点や気づきがあれば、それは立派なガクチカのネタになります。
2-2. 選考を受ける企業とのつながりを意識する
IT企業を目指すのであれば、ITに直接結びつく経験があればそれを前面に押し出してもよいですが、そうでない場合は「ITとどう関係するのだろう?」と不安になるかもしれません。しかし大切なのは、「どんな経験から、どんな力を身につけたか」を企業の求める人物像に関連づけてアピールすることです。
たとえば、大学のゼミでマーケティングの研究をしていた場合。IT業界でもマーケティング思考や論理的思考は非常に重宝されます。また、サークル活動やアルバイトでの企画立案、リーダー経験があれば、ITプロジェクトでも必要とされる推進力やコミュニケーション力がアピールできます。
3. ガクチカ作成のフレームワーク:STAR法
具体的にガクチカを文章化する際は、「STAR法」と呼ばれるフレームワークを用いるとまとまりやすくなります。STAR法とは以下の4つのステップで構成される文章構成術です。
- Situation(状況)
– どんな場面・状況だったのかを簡潔に説明する。
– 例:「私は大学3年生の頃、○○サークルのイベント運営チームのリーダーを務めていました。」 - Task(課題)
– その状況下で、自分が取り組むべき課題や役割は何だったのか。
– 例:「毎年参加者が減少傾向にあったイベントを盛り上げるために、新たな施策を考えなければいけない状況でした。」 - Action(行動)
– その課題に対してどのような行動をとったのか。
– 例:「まずは参加者の声をSNSやアンケートで集め、ニーズを分析しました。さらに他大学のサークルにも協力を要請し、共同イベントとして告知の幅を拡大しました。」 - Result(結果)
– 具体的な成果や得られた学び・成長を示す。
– 例:「結果として前年の2倍の参加者を集めることができ、イベント後のアンケートでも満足度90%以上を得ることができました。この経験を通じて、論理的に課題を分析する大切さと、チーム内外とのコミュニケーション力が重要であることを学びました。」
STAR法を使うことで、面接官や読み手にとって分かりやすい流れで物語ることができます。自分が置かれていた状況や問題、具体的な行動、そして結果としてどんなことを得たのか・学んだのかが明確になるため、「話が途中で迷子になる」ということを防ぐ効果もあります。
4. ガクチカを魅力的に見せるためのポイント
4-1. 課題感・問題意識をしっかり示す
「〇〇が大変だったので××しました」という経験は割とよくある話かもしれませんが、大切なのは“どんな課題を感じ、その解決に向けてどう考え、何を行動したか”です。企業は、学生が問題をどのように捉えて自ら動いたかを見ています。「なぜその課題解決に取り組もうと思ったのか」「その行動を通じて得た学びや気づきは何か」をより具体的に伝えましょう。
4-2. 数字や具体例を交えて説得力を高める
ガクチカにおいては、可能な限り客観的な成果を示すことで説得力が増します。
- アルバイトで売上がどのくらい伸びたのか
- イベント参加者をどれだけ増やしたのか
- どんな工夫をしてどのように変化したのか
これらの数字や具体的なエピソードがあると、「頑張っていました」だけでは伝わりにくい努力の度合いが明確になります。ただし、あくまで正直に提示することが大切です。事実ではない数字を盛り込んだり大げさに書いたりすると、面接で深堀りされた際にボロが出てしまう可能性があります。
4-3. 失敗や挫折があっても構わない
就活生のなかには「成功体験しか書いてはいけないのでは?」と思い込み、うまくいかなかった経験を避けようとする人がいます。しかし、失敗の中から学んだことをアピールできれば、それも非常に魅力的なガクチカになります。IT業界でも、プロジェクトが思うように進まず困難に直面することは日常茶飯事です。そんなときにどうやって踏ん張り、どんなふうに次のアクションを考えたのかは、むしろ企業にとっては知りたいところです。失敗や挫折のエピソードであっても、その後の成長が見えるようにストーリーをまとめると良いでしょう。
4-4. 最後に自分の強みとしてまとめる
文章の締めくくりでは、必ず「この経験を通じて身につけた強み」を明確に伝えます。たとえば、「論理的思考力」「チームワーク力」「粘り強さ」「情報収集・分析力」など、自分が得たスキルやマインドセットを総括しましょう。そして、その強みを今後企業でどのように生かしていきたいかを簡潔に述べることも重要です。
5. 文系・未経験からIT業界を目指す人が気をつけるべきこと
ここからは、文系・未経験でIT業界を目指す方がガクチカを作成するうえで、特に意識しておくと良いポイントを見ていきます。
5-1. 「ITに直結していないとダメ」という思い込みを捨てる
繰り返しになりますが、ガクチカはあくまであなたが「どう考え、行動し、成長したか」を見るものです。ITに関する知識や経験は、入社後の研修や実務を通じて身につけることができます。もちろん、プログラミングを勉強しているならそれをアピールしてもよいですが、必須ではありません。部活やアルバイト、サークル、趣味での経験も視点を変えれば十分にアピールの材料になります。
5-2. 調べる・学ぶ姿勢を強調する
IT業界は技術の進歩が速く、常に学び続ける姿勢が求められます。ガクチカのエピソードでも、「課題が生じたとき、どのように調べたり情報収集をしたのか」「自分から学びにいく努力をどれだけ行ったのか」を具体的に示すと、「この人は入社後も積極的に成長してくれそうだ」という印象を与えられます。
たとえば、ゼミで不明点があったときに自分から図書館で文献を探したり、教授や先輩に教えを乞いに行ったりといったエピソードでも結構です。自分が興味を持った分野や課題に対し、主体的に情報を取りにいった姿勢をアピールしましょう。
5-3. “非IT経験”のなかにあるIT要素を探す
文系・未経験といっても、まったくITと無縁な経験ばかりではないかもしれません。日常のなかで、SNSやデータ分析アプリ、表計算ソフトなどを活用していた経験はありませんか? たとえば、サークルのイベントで集計・分析にExcelやGoogleスプレッドシートを活用していたなら、それは立派なITリテラシーのアピール材料です。「興味を持って、新しいツールを積極的に使おうとした」という姿勢は大いに評価されます。
5-4. 自分なりのIT業界への興味・志望理由につなげる
ガクチカは単に学生時代のエピソードを語るだけで終わりにせず、最後はIT業界を志望する理由に自然につなげましょう。たとえばアルバイトでウェブ予約システムの便利さを実感した経験からIT技術に興味を持ち、もっと多くの人の生活を便利にするサービスを作りたいと考えるようになった、など。あなた自身が感じた「ITのおもしろさ」や「この業界で貢献したい理由」を結びつけることで、より説得力のあるストーリーになります。
6. ガクチカの例文と解説
ここで、文系・未経験者が書くガクチカの例文を簡単に紹介します。STAR法を意識した構成になっていますので、参考にしてみてください。
例文
Situation(状況)
私は大学2年生のとき、学内で行われる学園祭の実行委員として、来場者向けイベントの企画運営を担当していました。例年、来場者数が横ばい状態だったため、学園祭をより盛り上げる方法を模索している最中でした。
Task(課題)
特に問題となっていたのは、他大学とのコラボレーションが乏しく、学内だけで閉じたイベントになりがちだったことです。そこで私は、学外の人にも積極的に参加してもらえる企画を考え、来場者数を増やすことを目指しました。
Action(行動)
まず、SNSを活用して他大学のサークルや学生団体に呼びかけを行い、一緒にイベントを盛り上げるパートナーを募集しました。具体的には、「学園祭でコラボパフォーマンスをしてくれるサークルをSNSで募集」「合同の練習やPR動画の制作」などを行いました。さらに、イベントの告知にはInstagramやTwitter、大学周辺の商店街との連携も活用し、ポスターだけでなく店舗でのQRコード設置など多方面にアプローチを行ったのです。
Result(結果)
その結果、学園祭当日の来場者数は前年比150%に増加し、多くの来場者から「初めて他大学の人たちとも交流できて楽しかった」という声をいただきました。また、私はこの経験を通じて、主体的に外部リソースを活用する大切さや、SNSでの情報発信力の重要性を学びました。
まとめ(学び・強み)
学園祭の企画運営において、外部との連携やSNS運用を積極的に行ったことで成果を得られたことは、私の主体性と柔軟なコミュニケーション力を強化したと感じています。これらの経験から得た行動力や情報発信力は、IT業界でも新しい技術やサービスを広くユーザーに届けるために活かせると考えています。
解説
- Situation~Task で背景と課題を明確にし、「なぜ取り組む必要があったのか」が分かるようにしています。
- Action では、具体的にどんな行動をとったのかを詳細に書くことで、主体性・行動力をアピールできます。
- Result で成果を数値で示し、その後の評価や学んだことを簡潔にまとめています。
- 最後に、IT業界への興味と結びつけている点がポイントです。
7. 面接での深掘り対策
エントリーシートや履歴書でガクチカを取り上げた場合、面接でさらに深掘りされることが多いです。以下の点をあらかじめ押さえておくと、落ち着いて答えやすくなります。
- 具体的な数字や客観的なデータの根拠
– 「来場者数が前年比150%増加」という場合は、「去年は何人だったのか、今年は何人なのか」「どのように計測したのか」などを聞かれる可能性があります。 - 他のメンバーや先輩・教員との関係
– 自分だけが頑張ったように聞こえると、チームワークを疑われることもあります。「他のメンバーをどんなふうに巻き込み、協力を得たのか」「意見がぶつかったときはどう乗り越えたのか」などを想定質問として準備しておきましょう。 - 失敗や苦労した点
– どんな成功体験も、順風満帆だけではありません。企業側はむしろ「どんな困難や失敗があったのか」「そこからどのように挽回したのか」というプロセスを知りたがる傾向があります。困難をどう乗り越えたかを深堀りできるように準備しましょう。
8. まとめ:ガクチカを通じて「あなた自身の魅力」を伝える
文系・未経験からIT業界へ就職する場合でも、ガクチカをしっかりと作りこむことはとても重要です。IT企業は、あなたが学生時代にどんな技術を身につけてきたか以上に、「主体的に行動し、成長していける人か」を見ています。どのような経験でも、以下のポイントを押さえて作りこむことで、説得力ある自己PRへとつなげられます。
- どんなに些細な経験でも、そこにある努力や工夫、学びを掘り下げる
- STAR法を活用して、Situation・Task・Action・Resultを筋道立てて語る
- 数字や具体例を交えて客観的な説得力を高める
- 失敗も含めて、いかに乗り越え成長したかをアピールする
- IT業界への興味や志望理由と自然につなげる
就活では、どうしても「大したことができていない」「アピールポイントがない」と感じやすくなりますが、自分の経験を掘り下げることで必ず見えてくるものがあります。一度考えてみたときに何も浮かばなくても、改めて自分の学生生活を振り返ってみれば、思い出すこともたくさんあるでしょう。
大切なのは、経験の大小ではなく、そこから何を学び、どう成長したか。そして、その成長を仕事でどう生かしたいと考えているかです。ガクチカは「自分の魅力を言語化し、面接官に伝えるトレーニング」ともいえます。時間をかけて考え抜くことで、自分自身の強みや弱み、将来像がより明確になっていくはずです。
もし「やりたいことが定まらない」「何を強みにしていいか分からない」という場合は、自己分析を徹底して行いましょう。友人や家族、大学のキャリアセンターなどに相談して客観的な意見をもらうのも有効です。また、IT業界研究や企業研究を深めることで、「自分のどんな力が業界で活かせるか」のヒントも見えてきます。
ガクチカをきっかけに、あなたの学生時代の貴重な経験とそこから得た学びを整理し、それを堂々とアピールできるように準備してください。IT企業からの評価を得るためにも、そして自分自身を納得させるためにも、ガクチカは非常に大切な要素です。自信を持って自分のストーリーを語れるよう、しっかり準備して就職活動を進めていきましょう。